超人ザオタル(7)道を往く者
私は誰もいない道を歩いた。
春のような柔らかい日差しが気持ちいい。
だが私はこの陽気が長く続かないことを知っていた。
だからそれほど浮かれることもなかった。
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むしろ神妙な面持ちで歩いていた。
しばらくすると日が陰り、空模様が怪しくなった。
空は灰色の雲が立ち込め、雨が降り出した。
私は雨に濡れながら歩いた。
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道は土がぬかるみ、沼のようになっていった。
私は濡れて泥だらけになって歩いた。
身体が冷えて震えてくる。
空腹でめまいもしてきた。
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道を行くとはこういうことだと知っているから驚くこともない。
やがて雨は上がり、日差しが戻ってきた。
ひとりふたりと道を歩く者が増えてきた。
私はある町のような人で賑わう場所へと入っていった。
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そこで私はきれいな着替えと食事を渡された。
木陰で着替えると、ついでにそこに座って食事をした。
清潔な身なりと温かい食事で私は生き返った。
気分は晴れやかになり、前向きな気持ちになれた。
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ザオタル、そう私を呼ぶ声がした。
聞き覚えのある声だ。
小柄なミスラが人混みから手を振りながら笑顔で現れた。
私は片手を上げバツの悪い顔をして笑った。
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「やはり道を歩き始めたのですね」
ミスラは近づいて笑顔のままそう私に言った。
「ああ、そういう結論になった」
私は頭をかいて顔をそむけたが、ミスラに会えたことはなぜか嬉しかった。
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「私も少しお供をしてもいいでしょうか」
ミスラは私に臆することなくそう言った。
「それは構わんが、面白いことなど何もないぞ」
私はそっけなく答えた。
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「あなたが歩き始めて、道も喜んでいます。
いや、ほんとにザオタルが戻ってよかった」
ミスラは心底ホッとしているようだ。
誰かから何か使命でも与えられているのだろうか。
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「なぜ道は喜んでいるのだ。
私にとって喜ばしいことなど何もないのだ」
私はそんなミスラの態度に少し苛ついた。
これは好きでやっていることではないのだ。
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「いえいえ、それは分かります。
それでも少しは先に進むわけですから」
私はミスラの言っていることが理解できなかった。
だが、理解しようとも思っていなかった。
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「それでは少しでも先に進むとしよう」
私はそう言って立ち上がると、人混みの中を歩き始めた。
ミスラもそのあとに従った。
町の道は狭く大勢の人で息苦しい河の流れのようになっていた。
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町を抜けると、人混みも緩んで少し歩きやすくなった。
すぐあの分岐になった。
道は二手に分かれている。
さて、どちらの道を行くべきだろうか。
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数人がそこで立ち止まって迷っているようだった。
私は迷わずに右の道を行った。
その後を追って人々が付いてきた。
人々は自分で行く道もひとりで決められないのだ。
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「かつてはあなたもそうでしたよ、ザオタル」
ミスラは私の心を読んでそう言った。
私はそれに何の返答もしなかった。
そんなことがあったかもしれない。
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それから何度も分岐があった。
そのたびに私は何も考えずに行く道を決めた。
そしてそんな私に付いてくる者も増えていった。
私は黙って歩いた。
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