超人ザオタル(5)道の再来

ある日、いつものように森の小屋から出かけようとしたときのことだ。

目の前に、あの道があった。

道は小屋の前から踏み出す私の一歩を待っていた。

私は呆然とそれを眺めたあと、慌てて小屋の中に戻った。


これは夢ではなかった。

何度も小屋の中から外を見たが、あの道がそこにある。

やはり私は道から逃れることが出来ないのだ。

まだ歩むべき道がある。


だが、私は道の賢者とまでいわれた男だ。

それで道を極めたし、それ以上のことは何も出来なかったのだ。

その道から逃れて、ようやくここに自分を見つけた。

ここが私にとっての安息の地なのだ。


あの道に戻ることは悪夢でしかない。

そこでいったい何をすればいいというのだろうか。

歩けば歩くだけ辛くなるだけの道だ。

そう分かりきっている場所に戻る気は起こらない。


そうして引きこもったまま、しばらく経ったある日のことだ。

私は道の向こうから歩いてくる人の影を見つけた。

私は小屋の窓から誰が来るのかを見守った。

それは白く長い布を頭から羽織った若い女のようだった。


女はまっすぐに私の小屋を目指してくる。

あまりいい感じはしない。

私は部屋の中の椅子に座って、じっとしていた。

どうあれ道の戻るのだけはやめようと心に決めた。


小屋の扉がノックされて、女が扉を開けて入ってきた。

私を見て微笑むと、近くにあった椅子を引き寄せて座った。

「あなたは誰なのですか」

私は恐る恐る女に尋ねた。


「私はミスラですよ、お忘れですか、ザオタル」

私はまったく覚えがなかった。

「何をしにここに来られたのでしょう、ミスラ」

私は女の意図を計りかねていた。


「もちろん、あなたを道に連れ戻すためです」

ミスラはきっぱりとそう言った。

「私はもう道に戻る気はないのですよ」

私はその言葉を聞いてため息をついた。


「それはできないことです」

お分かりのはずです、とまたもやきっぱりと言い切った。

「そう言われても、私はもう死んだも同然なのです」

私の身体から力が抜けていく。


「神は死んだ、とでもいうのですか」

ミスラは皮肉っぽくそう言った。

「私は神などではない」

ただの愚昧な人間なのだ、と言った。


「あなたは道を歩かなければならないのですよ、ザオタル。

あなたが森に引きこもったせいで、誰も道を歩かなくなりました。

どうあれ、あなたはまた道を歩くのです。

こんなところで時間をつぶしていても契約は残っているのですから」


ミスラは立ち上がると、私の肩にそっと触れて言った。

「よく考えることです。

道をつくったのはあなたで、放っておくことなんて出来ませんよ。

あたなが忘れても、道はそれを覚えていますから」


ミスラは扉を開けて出ていった。

私は座ったままその姿を横目で見送った。

ザオタル、とミスラは言った。

そのとき私は久しぶりに自分の名前を聞いたのだ。


空風瞑想

空風瞑想は真我実現の瞑想法です。瞑想を実践する中で、いままで気づかなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そうして「私は誰か」の答えを見つけ、そこを自分の拠り所にするとき、新しい視点で人生を見つめることができるようになります。