超人ザオタル(4)隠遁者
私は賢者になっても道を誤るという多くの失敗を経験した。
そこで自らも傷つき、人々を傷つけ責められもした。
私の顔にはいくつもの深い苦難のしわが刻まれた。
それでも道は続き、私はそこを淡々と歩んでいった。
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いつしか私の後ろには付き従う人々の列ができた。
私は分岐で集まる人々にその道の先の話をした。
それがどんな話だったかはあまり覚えていない。
私は秀でた賢者だったが、いつでも未熟で何も知らなかったのだ。
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それでも人々は私の話に耳を傾けた。
それで去る者もいれば、そのまま付いてくる者もいた。
私は直感で道を選択し、先頭になって歩き出した。
それがどんな道になるかなど何も知らなかった。
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大抵の場合、私の選択した道は期待通りではなかった。
そこで自らを傷つけ、人を傷つけ、世界を傷つけたのだ。
私はその度に打ちひしがれ、苦悩が胸に刻まれた。
記憶の重石は増えて、それが私の身体と心を蝕んでいった。
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あるとき、私はそんな自分に耐えきれなくなった。
それで道を外れた深い森の奥にひとり引きこもった。
私は道を歩くことをやめたのだ。
人々と歩んでいくことに疲れ果てしまった。
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私は森の小屋でただじっと目を閉じて時を過ごした。
静かな森の中にはそれを邪魔するものはなかった。
私はすべての経験のしがらみを捨て去った。
結ばれていた重石もすべて解き放った。
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もう自分が誰であろうと構うことはなかった。
賢者といわれた自分の誇りも尊厳も捨てた。
ただの人として、何も出来ない愚者としてそこにいるようにした。
そうして私は価値のない人間に成り下がったのだ。
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それは私にとって予想外に快適な状態だった。
久しぶりに空を見上げれば、その青に心が吸い込まれていく。
森の静寂は私の混乱を優しく癒やしてくれた。
鳥の鳴き声や風のさざめきが新しい私の友となった。
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そんな中で私は夢を見た。
目の前にあの道が続いている。
周りに人はだれもいなくて、私だけがその道を見ている。
私はひとり立ち尽くして、そこから一歩踏み出すのをためらっていた。
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はっと目覚めると、私は森の静かな朝の空気を感じて安堵するのだ。
これで何が悪いというのだろうか。
私はこれも道ではないかと思った。
これが私の選択したひとりの道なのだ。
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私はあの道の夢を頻繁に見るようになった。
道はまた私に歩かれるのを待っていると分かった。
それでも私はあの道に戻る気は起きなかった。
森に中でひとり暮らすことに満足していたのだ。
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私の顔は穏やかになり、身体は軽やかになった。
これが私の行き着いた道の終着地なのだ。
十分に私は道を歩いてきて、その経験を積んできた。
そしてそれを完全に捨て去ったということだ。
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