かみむすび(88)世界の夢
太陽が山にかかれば、時の流れを目にするだろう。
空は赤く染まりながら、星の舞台へ闇を呼び寄せる。
そうしてどの生命もはじまりの地へと降りていくのだ。
にぎやかなこの世界から離れた静寂が支配する原野へと。
その原野から遠く離れていれば、世界を故郷と見なすだろう。
原野で生まれたことは暗闇の洞窟に描かれた記憶なのだ。
蒼い魂はそこで震えながらあの世界に戻りたいと乞い願う。
古の神のささやきはその呪文に掻き消されて届けられずに。
自分が何処にいるのか知るなら、静寂に目を覚ますだろう。
水の中で溺れているのではなく、そこが目覚めたところなのだ。
光り輝く子供は世界の夢を見て、そこをねぐらにしてしまった。
太陽が海から昇るたびに、目を覚まして世界の夢を見るのだ。
古の神はその夢から覚まそうと真夜中にささやき続ける。
静まり返った原野にそれを風としてあまねく運ぶ。
それを耳にしても気づかないふりをして世界にしがみつく。
そうして蒼き魂の失われた光は夜となって眠り続けるのだ。
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