超人ザオタル(2)人の河
私はここにいる価値があるのだろうか。
ここになぜ道が与えられているのだろうか。
麻痺した頭の中でそんな疑問が弱った魚のように浮き沈みしている。
大声で叫んでも、悲しみに沈んでも、歓びにはしゃいでも道は同じなのだ。
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私が通った道には私の感情の記憶が埋め込まれていく。
私はそれにわざわざ長い紐をつけて引きずっていた。
そうでもしないと、自分の価値が失われる気がした。
私の足取りは当然のように重くなった。
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だがその重さが私の存在を意味づけている気がするのだ。
だから、あえてその重さを引きずりながら道を歩いた。
歓びの道さえ重くなり、悲しみの道はさらに沼地のように沈んだ。
それでも私は感じている重さを宝物のように愛おしんだ。
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気づくと私の回りに人が増えていった。
私と同じように皆が道を重い足取りで道を歩んでいる。
悲しみにうつむく者、楽しげに笑う者、狂ったように叫ぶ者がいた。
それはまるで大きな河の流れのように見えた。
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大勢の人々で道の先はおろか足元さえも見えなくなった。
私は道を歩んでいるのではなく、人の河を泳いでいる気分になった。
そこでこの河を泳いでいくことが私の使命だと感じた。
私は黙って人をかき分けながら道を流れていった。
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道の分岐点では大勢の人々が選択に迷っていた。
選択に迷うのは私だけではなかったのだ。
誰もが春の道を選択したがったが、それは先を歩まなければ分からないこと。
ひとりの男が自信ありげに道を指差している。
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誰もが道の選択に確かなものなど持ち合わせていない。
だから誰かが大きな声でこっちだと叫べば、それに合わせることに抵抗はない。
実際にそうすることは楽なことだった。
たとえそれが凍てつく山道につながっていたとしても。
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私は道の選択を人任せにすることで、その結果の責任を誰かに負わせた。
それが期待した道でなければ、選択した人を責めて気を晴らした。
そうして人を責めることは気分がいいということを知った。
私はこの人の河で新しい道の歩き方を見つけた気がした。
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どの道の分岐点でも大勢の人々が集まっている。
そこで誰かが道を指差すのを待っているのだ。
みんながみんなの顔を不安げに見回している。
たまらずに誰かが道を指差して歩みだす。
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そうすると、みんな一斉に笑顔になり、列をなしてその後に続くのだ。
それが間違った道の場合に備えて人を責める言葉の準備をする。
私もそうして何度もその列に加わった。
いったい誰の責任でこの道を歩んでいるか曖昧になった。
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