かみむすび(87)一滴の水
宇宙の潮流は覚者を見つけると捕まえにやってくる。
その激しい流れで覚者をとらえると、世界の混沌の渦に投げ込むのだ。
覚者はたちまちその渦に飲み込まれて消えてしまう。
それでも潮流はそれをやめようとはしない。
それは赤く焼けた大地の溶岩に一滴の水を落とすようなもの。
一瞬でそれは蒸発し、溶岩に達することもないだろう。
溶岩はそこで何が起こったのかさえ気づかない。
覚者はそうしてこの世界から消え去るのだ。
宇宙の潮流は絶え間なくそれを繰り返す。
何度やっても無駄なことだが、それを何度でも繰り返すのだ。
覚者はそこで屍を累々と積み重ねていく。
だがその一滴の水が溶岩に届いたとき、何かが変わる。
それは何度も溶岩に降り注ぎ、その熱は冷やされていく。
水は小さな流れとなり、やがて溶岩を覆い飲み込むほどになる。
あの世界の混沌とした灼熱の渦は真夜中の湖のように鎮まる。
そうしてこの世界は覚者の透明な水で覆われた静寂となる。
0コメント