超人ザオタル(1)道
道というものは歩むようにできている。
目の前に道があって、ただそれを眺めているだけでは何も始まらない。
そこから一歩を踏み出したとき、空の境界で時が動き出す。
その時を身にまといながら、私は道を道として歩み出したのだ。
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道は一本だけではない。
至るところにいくつもの分岐点がある。
そこでは行く道をひとつだけ選ばなければならない。
私はその時その時に直感で道を選んだ。
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その道が春の陽気で花の香に満ちていれば幸せだ。
凍てつく山道で嵐に晒されたのなら、その不幸を嘆くしかない。
いずれにしても、私は様々な道を歩むことになった。
選んだその道がどこに続いているのか、それだけはいつも分からなかった。
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そもそも道を歩むことに何か意義があるのかさえ定かではなかったのだ。
それでも道は止まることなく、息つく暇も与えずに分岐点で選択を迫り続ける。
そうして道を歩むということが、私の仕事なのだと思うしかなかった。
私はそんな仕事を選んだ記憶さえないのだが。
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天気のいい春の道を歩めば、こんな人生もいいものだと思う。
だがそんな気持ちを無残に壊す厳しい道に必ず遭遇する。
そんなとき、私は道自体に悪態をつくことになる。
ただ苦労して歩いてきたからにはその先にある終着点を見てみたい。
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道はいつでも黙っている。
そこで私に何かを示すことも、行いを正そうとすることもない。
私にできることは、目の前の道を歩んでいくことだけだ。
余計なことは何も考えずに。
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ただ黙って歩いていると気疲れしてくる。
独り言でもいっていないとおかしくなりそうだ。
自分が狂っているのか、この道が狂気の産物なのか。
私は心の中に悪趣味な妄想の言葉を飾り付けた。
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私の妄想は無言の道へのあてつけだったのかもしれない。
子供じみたことだと分かっているが、そうでもしないと気がすまなかったのだ。
道の真ん中で踊り狂ったり、大声で怒鳴ったりもした。
そこで寝っ転がって、歩くのをやめたこともある。
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だがそんなことくらいでこの道は何の痛みも感じないのだ。
余計に自分が疲れるだけだ。
まったく道とは冷徹で人間味のない存在だ。
それでも私にはそこを歩むしか選択肢がなかった。
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道は遥か彼方まで続いている。
そこを歩く時間は呆れるほどたっぷりとある。
私は歩く人間としてここに存在している。
そこで楽しいことやつらいことを経験しながら歩く。
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次第に心が麻痺してきて、尖っていた疑問が薄れていく。
私は空っぽの頭でただ道を歩くようになった。
何も考えないほど楽なことはない。
永遠にこの時間が続くことが何だというのだろう。
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薄ら笑いを浮かべて疲れた足を引きずりながら歩く。
そして道の終着地を見つけようなどということは忘れてしまった。
私はただ道が与える経験を無造作に受け取りながら歩いたのだ。
それでも道は無言でその先を示し続けた。
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