13:別の世界について
かつてスピリット・ウェイカーは私にこう語った。
あなたは今の世界から別の世界に足を踏み出す必要がある。そう言われても、今の世界であなたが十分だと思えば、この世界からわざわざ別の世界に足を踏み出す必要性など感じないだろう。
実際に、あなたにとっては目に見えているこの世界がすべてであり、それ以外の世界があったとしても、それは幻想に過ぎないと思っている。そのため、あなたは何の疑問も持たず、この世界の現実に留まり続けている。そして、あなたはこの世界を自分なりに生きて、その中で自分の思いを満たしていくことが大切だと疑わない。
だが、いずれあなたはこの世界に疑問を持つことになる。それは一体何のために自分はこの世界で生きているのかということだ。それは仕事や娯楽で時間を費やすためだろうか。快いことを感じて幸福を実感するためだろうか。それはそれで大切なことかもしれない。だが、あなたはそれだけのために生きているのだろうかと思う。それだけでは満たされない何かがあると感じるのだ。
あなたは思考し、活動し、何かを感じながら、この世界の時を過ごしている。そうしながらも、あなた自身は何も変わらない。あなたはこの世界で幸福な自分に変わったと思うことがあるかもしれないが、それは時とともに過ぎ去っていく。それが過ぎ去っていくということは、それで自分は変わらなかったということだ。
あなたは幸福なことを経験できるが、幸福自体になるはない。これが今の世界であなたに起こっていることだ。だから、あなたは何のために生きているのかわからなくなる。だが、その疑問の答えは別の世界で本当の自分を見つけることで知ることができる。
あなたの生きているこの世界は全宇宙の表面の薄い層に過ぎない。その薄い層であなたは活動している。そこにあなたを幸福にする素晴らしい教えがあったとしても、それがこの世界の薄い層を出ることはない。
そのため、その教えの言葉はあなたの心を優しく満たすかもしれないが、この世界にいる限り、それがあなたの疑問の答えることはない。あなたは幸福になるための知識を増やすかもしれないが、どれだけ知識があっても、薄い層の中で幸福や不幸の繰り返しに翻弄されることから解放されることはないのだ。
そんなこの世界に虚しさを感じたなら、あなたはいくつかの選択をする。投げやりに生きていくこともそのひとつだ。どうせ何をしても同じだと刹那的な快楽を求めて生きていく。あるいは、虚しさがあっても、起こることに感謝しながら、愛を抱きつつ生きることも選択できる。だが、そのどちらも決定的な解決策にはならない。そこであなたが足りないと思っている何かを見つけることはできない。
もうひとつ、この今の世界から別の世界に足を踏み出していくという選択がある。それはあなたの疑問に答えることができる本当の自分を見つける道だ。一過性の幸福を無理やり自分自身にしようとする世界から離れて、自分の真実を悟る世界へと入っていくのだ。
その別の世界は不動であり、知性であり、ひとつであり、偏在している。それは今までの世界の層とはまったく勝手が違っている。そこで、あなたは戸惑いながらも、変わることがない本当の自分を見つけるだろう。そして、その自分を拠り所にして、その世界に根を下ろして生きようとする。
だが、あなたは今までの世界で幸福になることから簡単に離れることができない。心のどこかで、今までの世界以外に現実的な幸福を得られるところなどないと思っている。何の動きもない別の世界など、自分の幸福とは無縁であり、そこに何の魅力も感じられない。
別の世界に本当の自分がいると説明されても、実際にその世界を目の当たりにした途端、その意味のなさに失望して離れたくなる。なんだかんだと不満を言っても、あなたは変化する今の世界の中で何かをすることが楽しいと思っているのだ。
あなたは何の動きもない世界に魅力を感じることがないため、今の世界に戻ろうとするだろう。確かに、変化に富んだ世界には去りがたい魅力がある。変化のない別の世界に根を下ろすことは勇気がいることだ。その世界では、あなたが期待することが何一つ起こらないのだ。そこに留まる理由が見つからない。
だが、期待することが起こらないということはそう悪いことではない。真実は初め期待はずれで、そのあとに期待以上だと分かるものだ。もし、あなたが腰を落ち着けてその世界に留まってみるなら、そこに動きがないことの本当の理由を知ることになる。それまで、あなたはその理由をただ知らないだけなのだ。この理由を知って、はじめてその世界に来た理由が分かる。
そのことを知っている賢者たちはあなたにその世界についての話をするだろう。賢者たちはそこが天国のような理想郷ではないと説明する。話を聞いても、まったく魅力のない退屈でつまらない世界だ。わざわざ行く必要性すら感じない。そうであっても、あなたが自分の疑問を解消するために本当の自分を知りたいのなら、賢者の言う通り、その世界に足を踏み出していくしかない。
あなたの勇気あるその世界への一歩が、ある意味、理由付けが難しい無謀な一歩が、あなたを深い真実に根ざした本当の自分へと変えていくことになる。今の世界と別の世界を何度も行き来しながら、あなたは真実に触れて、やがて真実そのものになるだろう。そこであなたは理屈で理解することができない本当の自分を知るのだ。
このことを理解するために、どれだけ優れた賢者の言葉を記憶しても無理なことだ。本当の自分はその世界に行って初めて分かるものだ。別の世界に何の保証もない一歩を踏み出せる人だけが、それを知ることができる。あなたにとって難しいことかもしれないが、これがあなたの疑問を解消する本当の自分を知る道なのだ。
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