かみむすび(79)夜の来訪者
夜に訪ねてきたその人は古い友人だと言う。
だが、私は誰だか分からなかった。
会ったことがあるのでしょうかと尋ねた。
ええ、ありますともと古い友人は苦笑いをした。
私は誰を忘れてしまったのだろうか。
確かに会ったことがある気もするが思い出せない。
どんな御用ですかと尋ねてみた。
そろそろお会いしたほうがいいかと思ってと言った。
それであたなに会ってどうすればいいのでしょうと尋ねた。
私はあなたに頼まれてやってきたわけでして。
古い友人はそう言って困った顔をした。
でもこうして会えたことは喜ばしいことです。
そう古い友人が私の手を握った時、私は消えてしまった。
消えたのではなく、私が古い友人だったのだ。
それまでそこにいた私は誰だったのか。
いまではそれを思い出すことが出来ない。
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