かみむすび(75)心の声
その美しい声を私は聞いている。
声は私の心の深いところからやってくる。
歌のようでいて旋律はなく、語るようで言葉ではない。
何を言っているのさえ分からない。
音というには心をふるわされる波がある。
機械的というには人間の儚ささえ感じる。
私はその声に誘われて心の深いところへと意識を向けた。
声の持ち主を見てみたいと思ったからだ。
だが、心の奥に行くに従って声は薄れていった。
確かに聞こえていた声は幻のような残響だけになった。
気づくと私の周りは静寂に満たされていた。
そこで私は無音の世界に溶けていった。
私は生まれる前の自分になっていた。
そして世界に向けてここにいると叫んだのだ。
それは思ったような声にはならなかった。
ただ美しい波紋になって、心の中に広がっていった。
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