かみむすび(68)透明な存在
目を閉じて自分を見つめてみる。
自分とはどんな人間なのか。
生まれてから今までの記憶が呼び覚まされる。
私はこの身体や思考として育まれてきた。
自分が自分であるために多くの経験を積み重ねた。
確かな自分になるために、もっと確かな自分であるために。
いま、生まれたときよりは自分らしくなったと誇りに思える。
私はこれが自分だといえる人間になってきたのだ。
生まれる前、そこに自分はいなかったのだろうか。
記憶がそこだけ透明になっていて、何の反応も起こらない。
ともかく、その自分は名前もなく、何の経験もないのだ。
何の知識も能力もなく、弱々しい存在だったはずだ。
目を閉じて自分を見つめてみる。
私は身体でも思考でもなく経験や記憶でもない。
いまでも生まれる前の自分としてそこに存在している。
透明なその存在は自分としてすでに完成されていた。
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