名もなき師が教えてくれたこと(19:最終話)大樹の男
私は再び目を閉じた。
そこから離れる気が起こらなかった。
ここにいることが完全であるなら、なぜ動く必要があるのか。
だが、ひとつだけ私にはやることが残っていると知っていた。
-
ある男が私を訪ねてくる。
それは間違いないことだと確信していた。
いま、その男は夢の中でこの森に現れた。
そして、薄暗い獣道を心細く思いながら歩いている。
-
その男は私とつながっていた。
それは何も知らない過去の私なのだ。
私はその男を丘へと導いた。
男が森を抜けたのが分かった。
-
そして丘の上の大樹を目にしている。
さらに私は大樹のもとへと男を導いた。
それは過去の私だから、難なくそうすることができた。
無意識のところで私たちはつながっているのだ。
-
男はまっすぐに大樹を目指して丘を登ってくる。
所々で、男は大樹を見上げて感嘆の声をあげた。
薄雲が大樹の頂きを隠すように流れていった。
男が大樹の根本に座っている私を見つけたのが分かった。
-
そして、私を目指して歩いてくる。
私はこの男に私に真実を伝えなければならない。
男が私の目の前に座ったのを感じた。
私はゆっくりと目を開けた。
0コメント