名もなき師が教えてくれたこと(12)言葉

気づくと私は男の前に座っていた。

男は静かに微笑んだ。

私も胸に手を当てて微笑んだ。

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そのまま私は言った。

「それでは話を始めます」

男も微笑んだまま言った。

「どうぞ、始めてください」

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「昨日の続きになります。不安になることは無駄なことなのでしょうか」

「無駄なことではありません」

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「私は不安になる必要がないのに、不安になっていると言われているのですが」

「不安になることは心のとても情緒的で美しい姿なのです」

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「不安が美しいとはとても思えません」

「あなたが自分とは身体や心だというレベルでは美しいとは思えないでしょう」

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「本当の自分というレベルでは違う見方になるということでしょうか」

「本当の自分から見たとき、それは心が創り出す美しい造形なります」

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「そうなれば、不安も美術品か何かのように見えるのでしょうか」

「あなたは星空を美しいと思うでしょう。しかし、それらは燃え盛る炎の塊であり、あなたにとって決して心地良い環境ではありません」

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「それは何となく分かります」

「安全な環境から星空を見れば美しいと思えますが、その星に住んでいれば過酷な環境に置かれます。不安はそれに似ています」

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「私は不安であることを美しいと感じる必要があるということでしょうか」

「そうではありません。不安を無理やり他の見方に変える必要はありません。ただ、本当の自分という視点でいることです」

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「私がまだ本当の自分という視点にいないから、こういった疑問が起こるのでしょうか」

「そうです。本当の自分という視点は言葉で正確に説明できないので、実際にあなたがそうならないと理解できないものです」

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「私はどうしても言葉で理解したくなります」

「言葉は理解のためのガイドにはなりますが、決して真実にはなりません」

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「そうは言っても、言葉は人の心を変える力があるのではないでしょうか」

「その通りです。言葉には人の心を変える力があります」

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「ほとんどの人は自分を変える言葉を求めています」

「そうして自分を変えることが、自分の真実を知ることにはつながりません」

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「より良い自分になれば、自分の真実を知らなくても良い気がしますが」

「自分を変えて、より良い自分になっても、それが続くわけではありません」

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「それを続かせようと努力することもできます」

「それではいつまでも自分をより良い状態に安定させることはできません」

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「それは安定させなければいけないのでしょうか」

「本当の自分という定位置を確保しなければ、どれだけ良い自分になっても意味がないということです」

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「ほとんどの人が本当の自分という真実よりも、心を震わせる言葉を望んでいます」

「言葉は美しいものです。しかし、それは本当の自分を知らなければ枯れてしまうでしょう」

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「どうすれば、私は本当の自分をいう真実を重要視することができるでしょうか」

「それは無条件でそれを知りたいという、ある意味、理性を超えた衝動が必要です」

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「そんな衝動は誰にでも起こるのでしょうか」

「それは簡単に起きないでしょう。だから、それを知っている師は常にそのことを言い続けています」

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「私はまだ本当の自分の重要性を認めたくないもかもしれません」

「それで、私がこうして話をしています」

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「本当の自分を知ることは、私に何をもたらしてくれるのでしょうか」

ここで男は黙った。

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私は目を閉じた。

そして、大樹の下の静けさに包まれた。

私は目を覚ました。

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。