名もなき師が教えてくれたこと(8)現実
気づくと私はあの大樹を目の前に立っていた。
あの男もそこにいて、私を見て微笑んでいる。
もう森を歩く必要がなくなったようだ。
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私はその場に座った。
「話を始めますが、いいでしょうか」
男は言った。
「はい、どうぞ始めてください」
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「現実とは何なのでしょうか」
「現実とは決して変わらず、常に存在するものです」
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「この世界は変化し、現れたり失われたりします。つまり世界は現実ではないということでしょうか」
「あなたが見ている世界は現実ではありません」
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「この世界が現実ではないと言って、誰が信じるでしょう」
「信じるかどうかではなく、世界が現実ではないことが真実なのです」
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「こうして触れている自分の身体も現実ではないと」
「現実ではありません」
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「それではあなたも現実ではないということになります」
「そうです。この身体は現実ではありません」
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「私はそれをどう理解すれば良いのでしょうか」
「現実を知ることです」
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「どやって現実を知れば良いのでしょうか」
「瞑想して本当の自分を知ることです」
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「本当の自分だけが現実なのでしょうか」
「それだけが現実です。それ以外に現実はありません。すべて消え去る儚いものです」
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「本当の自分は消えることがないのでしょうか」
「それは決して消えることがありません」
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「本当の自分を知ったとき、それだけが現実だということは虚しくないでしょうか」
「虚しいどころか、あなたはその現実を知ってその美しさに驚くでしょう」
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「本当の自分という現実は美しいのですか」
「それはすべての美しさを内在しています」
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「本当の自分の見た目が美しいということではないのですね」
「その通りです。見た目の美しさではありません」
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「見た目の美しさがなければ、虚しいと思いますが」
「この世界の美しいものは、すべて本当の自分によって創造されています」
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「それではこの世界のすべてが美しいということになります」
「そういうことです」
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「この世界には醜く、汚れたものもあります」
「それは人間の目を通して感じるものです。本当の自分からはそうは見えません」
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「私は世界を美しいと思うことがありますが、それはごく一部だということでしょうか」
「そうです。人間の目はごく一部の世界しか見えません」
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「現実とは本当の自分であり、その目を通して世界を見たとき、見え方が変わるということでしょうか」
「その通りです。あなたが本当の自分になったとき、あなたは個人でも人間でもなくなっています」
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「よく分からなくなってきました。私は一体誰なんでしょうか」
「あなたは存在であり、すべての創造の源なのです。それがあなたの唯一の現実です」
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「存在とは何でしょうか」
ここで男は黙った。
ふと見上げると、大樹の鮮やかな緑が目に映った。
私は目が覚めた。
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