名もなき師が教えてくれたこと(7)人生
私は夢の中で見慣れた森の道を早足で歩いていた。
これで七日目になる。
あの男と話す時間は限られている気がしていた。
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ただ、私はこの対話にどんな意味があるのか計りかねていた。
それでも話さなければならないという気持ちがあった。
いつものように男は樹の下で待っていた。
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私は男の目の前に座った。
「話を始めてもいいでしょうか」
男は微笑みながら言った。
「どうぞ始めてください」
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「私が生きている意味とは何でしょうか」
「本当の自分を知るためです」
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「それを死んだあとに知ることはできないのでしょうか」
「できません」
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「それはどうしてでしょうか」
「死んだあとは、また生まれたいという欲求が優るからです」
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「死んだあとに、また生まれたいと思うものでしょうか」
「生への渇望は生きているとき以上に起こります」
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「それはどうしてでしょうか」
「死によって自分の可能性を制限されていると感じるからです」
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「可能性を制限されているんですか」
「身体を失ったため、とても不安定な状態になります。不安定な状態を正すために身体が必要だと思うのです」
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「身体がないということは、ある意味、解放されていると思うのですが」
「最初は解放されたと感じるかもしれませんが、本当の自分を知らないため、それが長続きしないのです」
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「本当の自分を知れば、解放されていることが長続きするのでしょうか」
「長続きするどころか、それは永遠になります」
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「それは永遠に死んでいるということでしょうか」
「本当の自分は生きているとか死んでいるとかの概念を超えています」
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「人は生きているか死んでいるかのどちらかだと思いますが」
「それは肉体を自分とすることを基準とした概念であり、すべてに当てはまるわけではありません」
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「あなたは生きているのでしょうか。それとも死んでいるんでしょうか」
「存在しています」
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「あなたから見て、私は生きているでしょうか、死んでいるでしょうか」
「本質は存在していますが、それを知るまでは生きているようで死んでいます」
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「私は生きていると思っていますが、死んでいるということですか」
「自分に生死があると思っている段階で死んでいる状態です」
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「私が死んでいるとはどういうことでしょうか」
「渇望を自分としているということです」
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「渇望があるから生きているのではないでしょうか」
「渇望を自分だとしているのなら、死んでいるも同然です」
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「自分とは身体でも思考でもなく、存在だということですね」
「その通りです」
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「それを知るまで私は死んでいる。そんな感覚は私にありませんが」
「あなたはあなたの感覚を信じるでしょう。ただ、真実が何かを知っているわけではありません」
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「なぜ私の身体や心の感覚はこんなにも現実的なのでしょうか」
「それはあなたがそう信じたいからです。あなたが本当の自分を知れば、それは身体や心よりも現実だと知るでしょう」
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「現実とは何なのでしょうか」
ここで男は黙った。
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私は白檀の香りに気づいた。
そして目が覚めた。
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