名もなき師が教えてくれたこと(6)問題
夢の中で、私はいつものように森を抜けてあの大樹を目指した。
そこにはあの男が座って待っていた。
不思議なことに私は必ずあの男がそこで待っていると確信していた。
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私は男の前に座った。
「話を始めて良いでしょうか」
男は微笑みながら言った。
「いつでもどうぞ」
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「本当の自分を知ったとき、世界にあふれている問題は消えるのでしょうか」
「消えません」
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「私たちは世界を良い姿にしたいと考えています。それについて本当の自分は何もしないということですか」
「何もしません」
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「それは残念です。それでは、本当の自分は私にとって価値が低いかもしれません」
「その価値の転換が必要になりますが、それには時間がかかるかもしれません」
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「どのくらい時間がかかるのでしょうか」
「人によりますが、明日かもしれないし、千年後かもしれません」
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「どうすれば価値の転換が図れるのでしょうか」
「自分の真実を認め続けることです」
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「自分の真実とは何でしょうか」
「瞑想の中でそこにいる自分が本当の自分だということです」
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「それだけのことで価値の転換が起こるのでしょうか」
「それしか方法がありません。それを本当に認めたとき、価値の転換が起こり始めます」
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「私たちは世界で取り組まなければならない問題があります。それは放置しても良いのでしょうか」
「それは放置すべきではありません。世界の一員として取り組むべきことです」
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「世界の問題と本当の自分を知ることがつながることはないのでしょうか」
「最終的にはつながりますが、初期においてはそこに距離を感じるでしょう」
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「最終的につながるとはどういうことでしょうか」
「どのような問題も、最終的には自分とは誰なのかというところに行き着きます」
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「自分が誰なのかを知ったなら、世界の問題は解決するかもしれないということですか」
「世界のことは世界に責任があります。あなたはあなた自身の問題を解決しなければなりません」
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「やはり、本当の自分を知っても世界の問題は解決しないということですか」
「あなたが本当の自分を知ったなら、世界に問題などないと知るでしょう」
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「世界には問題があり、私はその影響を受けています」
「世界から影響を受けていると思っているのは誰なのでしょうか」
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「それは自分に他なりません」
「その自分が明確に定義されていなければ、世界から影響を受けているとは言い切れません」
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「私に問題がないと分かっても、他の人たちは世界の問題にさらされています」
「それはこの時間においての話です。人それぞれに理解の段階があります。それは尊重しなければなりません」
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「他の人が苦しんでいれば助けたくなります」
「それは正しい行為ですが、その一番の助けは、あなたが本当の自分を知ることです」
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「私が本当の自分を知っても、人の苦しみはなくなりません」
「あなたは苦しんでいる誰もいないと分かります。それを人に示すことができます」
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「それは他の人には理解し難いことかもしれません」
「少なくともあなたが真実を知っているということが大切です」
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「私はいったい何のために生きているのでしょうか」
ここで男は黙った。
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私は大樹の香りを乗せた風を感じた。
そして目が覚めた。
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