かみむすび(52)深海の土塊
星が消え始めて空に薄青が広がっていくと、太陽が水平線から現れる。
神々しい恒星の光は高く掲げられていくほどに輝きを増していく。
白光は冷え切った大地を温め、生命たちを深い眠りから覚ます。
一羽の鳥が空を飛んでいくなら、海は蘇ったのだ。
灰色に覆われた空に風が雲を低く流していくと、午後の雨は上がる。
水たまりに青空が映れば、雨雲が立ち去った名残の土の匂い。
大きく息を吸った銀杏の木が葉を揺らし伸びをすると水滴に陽の光が瞬く。
つぼみが膨らんで色を滲ませているなら、大地は蘇ったのだ。
陽の光が山裾に落ちていくと、忘れられた星たちが輝き始める。
暗闇が空を覆うほどに、星たちはよみがえり、ゆらゆらと楽しげに踊る。
太陽が消えたことを喜び、大地の生命たちは深い眠りにつく。
海はさみしげに歌っていたが、魚たちはそれを聞いていやされていた。
私は深海の土塊(つちくれ)になり、海の歌さえ知らなかった。
太陽の栄光も、星の踊りも、銀杏の木の息も、雨の匂いも知らない。
それでも私はそこにいて、わずかなぬくもりを添えて触れていた。
深海の闇から私の一瞥があれば、世界は蘇ったのだ。
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