名もなき師が教えてくれたこと(5)真実
気づくと夢の中でまた森を歩いている自分がいた。
私は迷うことなくあの丘の大樹に向かって歩いた。
心なしか森は明るくなり小さくなったような気がした。
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大樹の根本にはあの男が微笑みながら私を見て座っていた。
私はいつものように男の前に座った。
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私は男に話し始めた。
「話を始めても良いでしょうか」
いつものように男は言った。
「どうぞ」
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「本当の自分を見極める方法はありますか」
「あります」
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「どのようにそれを本当の自分だと見極めればいいでしょうか」
「ひとつは、前回伝えたように、それが客観的かどうかです」
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「それは分かりました」
「次に、それがひとつかどうかです」
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「ひとつかどうかですか」
「その自分はひとつしかありません。それがいくつもの自分であれば、本当の自分ではありません」
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「ひとつかどうかを確かめる方法はあるのでしょうか」
「自分でいるとき、それ以外の自分になれるかどうか、そこから移動できるかどうかを確かめます」
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「そこから動けるかどうかを確かめるということですね」
「そうです。そこから動けるのであれば、本当の自分ではありません」
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「客観的でなく、それがひとつであれば、本当の自分ということでしょうか」
「他には、いつでもそこに戻ることができ、そこに何の動きもなければ、それは自分だと言えます」
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「何の動きもないのですか」
「はい、何の動きもありません」
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「自分とは何の動きもないということが、どうも分かりません」
「動いてしまえば、それは対象になり、ひとつではなくなります」
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「対象ではなく、ひとつであり、動きもなければ、それが自分ということでしょうか」
「そうです。そして、それは確かに存在するということです」
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「確かに存在するですか」
「これが最も大切な自分の性質です」
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「すべては確かに存在するのではないでしょうか」
「動きがある対象は必ず消えていきます」
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「対象でないものを確かに存在すると、どうすれば分かるのでしょうか」
「瞑想中に存在し続けることで、それは確信になります」
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「そんなことを今までやったことがありません」
「自分でいることは馴染みがないわけではないですが、自分でいることを意識することは馴染みがありません」
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「確かに自分でいることは当たり前の感覚のようです」
「自分でいなかったことはないので、それは当たり前の感覚です」
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「ただ、それを確かめようとすると、とたんに不確かになる」
「そうです。それで自分でいることが分からなくなるのです」
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「分からなくなるから、また世界の感覚に戻っていく」
「自分を見失って、自分の価値を世界の基準に戻すことはとても簡単です」
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「それで、私たちは輪廻転生という囚われの中から出られないのですね」
「本当の自分という出口を見つけなければ、あなたはずっと世界の渦の中で目を回し続けます」
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「本当の自分を知れば、世界の問題は消えるのでしょうか」
そこで男は黙った。
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しばらくの沈黙の後に私は目を覚ました。
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