名もなき師が教えてくれたこと(4)瞑想
気づくと私は夢で森の中を歩いていた。
いつもの道を通って、私は森を抜けた。
丘の大樹を目にすると、早足でその根本へと向かった。
根本にはあの男が座っていて、私を見て片手を上げた。
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私は微笑みながら男の向かいに座った。
男も微笑んで私を見ている。
大樹の下はとても静かだった。
やはり白檀の香りがした。
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私は男に話し始めた。
「昨日の続きのお話をしたいのですがいいでしょうか」
男は微笑んだまま言った。
「どうぞ始めてください」
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「自分を知るために瞑想は必要なのでしょうか」
「瞑想は必要です」
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「瞑想をしてみましたが、やはり自分が誰か分かりません」
「それは普通のことです」
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「瞑想で自分が分からないということは普通のことなのですか」
「はい、今までの自分に対する固定概念があるため、瞑想中の自分を認めることに抵抗があるのです」
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「瞑想中の自分とは何でしょうか」
「あなたの中心から見ている視点であり観察者のことです」
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「それを瞑想中に感じることはできますが、それが自分だという感じはしません」
「それが今のあなた個人の抵抗です」
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「抵抗という感じもしませんが」
「馴染みのあるものを特別な理由もなく手放したくはないものです」
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「確かに、今すぐに自分を変えなければならない切迫した理由もありません」
「それが抵抗なのです」
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「頭では理解していても、自分を知るという必要性がぼやけています」
「それが自分を知る人の少ない理由です」
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「瞑想で自分を見つけたという人もいます」
「それが本当の自分かどうか確かめる必要があります」
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「どうすれば、それが自分かどうか確かめられるのでしょうか」
「それが客観的な対象であれば、自分ではありません」
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「客観的な対象では駄目なのでしょうか」
「客観的な対象は、対象というだけで本当の自分の条件に合いません」
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「それではほとんどのものが自分ではありませんね」
「その通りです。自分はひとりしかいませんから、それを見極める必要があります」
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「何が自分なのか分からなくなります」
「世界を見ている視点だけが、この世界で対象ではないものです」
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「それは分かりますが、対象ではないものを自分として良いのか確信が持てません」
「本当の自分は対象でないため、五感で確かめることはできません」
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「どうすれば、自分の視点を自分だと確信することができるでしょうか」
「瞑想して、それで在り続けることです」
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「そうすれば、いつか分かるのでしょうか」
「分からないかもしれませんが、可能性は高まります」
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「自分が分からなければ、人生で何をするのかに興味が移りそうです」
「そうして自分とはどんな性格だとか、どんな能力を持っているかといった定義に戻っていきます」
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「それは絶対に犯してはいけない危険な状態ではないように思えます」
「それでほとんどの人は自分を見失っているのです」
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「それが本当の自分かどうかはどうやって確かめれば良いのでしょうか」
そこで男は黙った。
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視界が次第にぼやけたかと思うと、私は目が覚めた。
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