名もなき師が教えてくれたこと(2)自分
次の日も私は夢の中で森を歩いていた。
そして、昨日と同じあの巨大な木を見つけた。
その根本にはやはり同じ男が目を閉じて座っていた。
私は男の前に座ると目を開けるのを待った。
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男はしばらくして目を開けた。
やはり男の瞳の中に星々の輝きを見た。
男は私を見て微笑んだ。
私は少し困惑した顔で無理に微笑んだ。
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私は男に言った。
「また会いに来ました」
男は当たり前という顔で答えた。
「それでは話を始めましょう」
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「では昨日の質問の続きです。どうすれば私は自分を知ることができるでしょうか」
「瞑想することです」
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「実はすでに時々瞑想をしていますが、自分を知る体験をしたことがありません」
「それは自分を知るための瞑想をしていないからです」
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「どうすれば自分を知る瞑想になるのでしょうか」
「瞑想中に自分の視点でいることです」
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「視点でいるとはどういうことでしょうか」
「心の世界を見ている観察者でいることです」
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「その自分を知ることで、私にどんな得があるのでしょうか」
「自分を知ることに何の得もありません」
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「幸福感に満たされるとか、心の問題が解消されるとかもないのでしょうか」
「こういうことは起こりません」
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「それでは誰も自分を知ろうとは思いません」
「それでは輪廻転生が終わることはありません」
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「輪廻転生は終わらせる必要があるのでしょうか」
「あなたは閉じ込められた部屋から出たいとは思わないでしょうか」
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「もし、その部屋の居心地が良ければ、そう思わないかもしれません」
「どれだけ居心地が良くても、閉じ込められていることに変わりはありません」
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「確かに閉じ込められていると思えば、窮屈に感じるかもしれません」
「あなたは永遠にそこに居続ける必要はないのです」
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「その部屋から出ていく方法が自分を知るということなのでしょうか」
「その通りです。自分を知ることが唯一の脱出口です」
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「そのために瞑想をして、観察者になっていれば良いのですね」
「その通りです。そうすれば自分を知ることができます」
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「自分を知ることは、自分を変えるということでしょうか」
「変えるとも変えないとも言えます」
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「変えるとすれば、何が変わるのでしょうか」
「自分についての定義が変わります」
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「変わらないとすれば、何が変わらないのでしょうか」
「そもそも、自分とは観察者であって、そうでなかったことなどないということです」
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「やはり、それで幸福になることはできないのでしょうか」
「幸福は感覚であり、それは過ぎ去るものです。あなたはそれを超えなければなりません」
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「幸福を超えるとどうなるのでしょうか」
「幸福でも不幸でも問題がない自分でいることになります」
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「そうなることは、私にとって良いことなのでしょうか」
「良いことというよりは、それがあなたの真実だということです」
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「人間として幸福を求めてはいけないのでしょうか」
男は黙って答えなかった。
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私が何かを言おうとしたとき、そこで目が覚めた。
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