かみむすび(48)恋する魚
その魚は水の中から空を眺めていた。
ゆらゆらと美しく揺れる青が広がっている。
老いた魚が、あれは空というのだと教えてくれた。
そして、そこには決して行けないこと、行っても生きられないこと。
それでも魚は恋するように毎日青い空を眺め続けた。
ある魚が教えてくれた、空へは行けないけれども近づくことはできると。
勢いよく泳いで水面を突き抜ければいい。
空に恋していた魚は、少しでもそこに近づきたい想いを抑えられなかった。
水中深くから勢いよく泳いで青が揺らめく水面を目指した。
魚は水面を突き破って空中へと躍り出た。
澄み切った空の青が魚の目に映った。
その美しさと神秘的な姿に魚はめまいがしそうだった。
魚は毎日水面から飛び出してはそうして空を眺めた。
ある日、身体が軽くなったかと思うと空高く引っ張り上げられた。
一羽の鳥が魚を加えて、空へと勢いよく飛び上がったのだ。
それでも魚は願った、もっとあの空の近くへと。
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