かみむすび(37)夜の滝
夜の森は静まり返り、私の歩く足音だけが響いている。
やがて水の流れる音が聞こえて、その音に導かれ滝へとたどり着く。
岩肌を流れる水が暗闇に白く闇に浮かんで、私に触れようと手をのばす。
私はその手に誘われるようににして滝の中に入った。
滝を落ちる水が私の身体を伝って流れていく。
その流れは私の身体からぬくもりを奪って水に同化させようとする。
はじめ私は水の冷たさに抗って我が身を守った。
やがて、水の流れにすべてを任せた。
暗闇の中で水の流れる音だけが響いていた。
もはや冷たさはなくなり、そこには水の流れだけがあった。
私の身体は消えてなくなり、流れる水だけになってしまった。
暗い森の中で私はいなくなり、そこに誰かとしていたのだ。
私の中から何かが流れ去り、誰かが水の中で目覚めた。
それが身体を伝って流れていくのを感じながら森の香りに気づいた。
そこで私は確かな自分でいられた。
いままでの私のすべてが流れて、そこにいる私だけになった。
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