神の声 第3章:大樹の精霊(15)

「聡明な魂にして躊躇なく未知の扉を開かんとする果敢なる冒険者よ」

「私の師は本当の自分は個人ではないと言っていました」


「人間は自分が個人だと思っています」

「個人の知識を増やし、個人の喜びを求め、個人の経験を蓄えます」

「そして、その全体が自分自身という個人なのだと信じています」


「でも、師はそれを自分ではなく」

「世界のものだと言いました」


「だから、どれだけ世界から素晴らしいものを手に入れても」

「それはただ、物事が世界の中で移動しただけで」

「人が求めている自分の真実にはならないのだと」


「このことはとても理解し難いことです」


「それに、例え世界には本当の自分はいないということを受け入れ」

「心の中に本当の自分を見つけたとしても」

「そこで受け入れがたい事実が突きつけられます」


「それは、最高の個人を求めて本当の自分を探してきたのに」

「それを見つけた途端に、それは個人ではないと言われることです」

「それで殆どの人は落胆して、世界にいる個人としての自分に戻っていきます」


「それは理解できる選択ですが、正しい選択ではありません」

「正しい選択ではないので」

「自分を求めることを」

「世界の中で終わることなく続けていくことになります」


「もし、正しい選択をしたなら」

「もう自分探しはそこで終わりです」

「自分は個人ではなく、心の中の本当の自分だと知ったからです」


「それは決して自分探しは無駄で意味が無いからと諦めることではありません」

「本当の自分を知ったので、それ以上自分を探す必要はないということ」


「もし、あなたが個人を自分とするなら」

「世界で知識や喜びや経験を求めていくでしょう」

「それは終わることがありません」

「世界にはいくらでも知識や喜びや経験がありますから」


「尽き果てぬ世界の物事のそのすべてを手にしようと」

「それを手にしなければ最高の自分になれないと」

「飢えた獣のようにそれを求めなければなりません」


「もちろん、それは世界のものなので」

「自分になることはありません」


「そのため、自分が死ぬことさえ認めることができず」

「何度もこの世界に生まれ変わってきます」


「本当の自分が個人ではないと認めることは」

「真実を受け入れるということです」


「個人でなくなることは寂しいかもしれませんが」

「あなたが瞑想で何度も確かめているように」

「その存在は紛れもない真実なのです」


「それには人間的な匂いがありません」

「それは当たり前のことです」

「あなたの真実は人間ではないということなのですから」


「では、あなたが人間の個人でないとするなら」

「いったいあなたは誰なのでしょうか」


「あなたはすでに自分でも知っているように」

「そこにいる存在なのです」

「動くこともなく、喋ることもなく、ひとりで暗闇いるだけ」

「それがあなたの真実です」

「それが受け入れがたいことだとしてもです」


「ただ、世界のすべてはこの存在で創られています」

「その存在はすべての始まりの点であり」

「そこから無限に分割されてこの世界が創られました」


「ですから、個人や世界はすべて自分だということができます」

「すべてが自分なのです」


「このことを正しく理解するためには」

「自分とは人間の個人ではなく」

「ただの存在だということを受け入れなければなりません」


「これが私の師が教えてくれたことです」

「師がこの地に長く生きる私に託した教えのすべてです」

 精霊はそう女に言った。


「遙かなる時を越えて真実を携える黄金に輝く光の旅人よ」

「私はあなたの話で良く分かりました」

「私が何を迷っていたのか」

「私が何をためらっていたのか」


「あなたは暗闇の中に落ちようとするばかりの迷える私に」

「光の手を差し伸べて救ってくださいました」


「私は私の願望を信じるのではなく」

「私の中の明らかな真実を信じます」

「たとえそれが個人を捨て去ることになるとしても」


「この美しい教えに触れたことで」

「私は人として稀有な道を見つけることができました」

「これからもあなたが迷える探求者に道をお示しになりますように」

 女はそう精霊に言った。


空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけます。それを自分の拠り所にすることで、人はその真実と共に蘇り、新しい自分として生きることを始めていきます。