神の声 第3章:大樹の精霊(11)

 それから、また歳月が流れ、

 あるとき、ひとりの男が大樹の下にやってきた。

 男は木の根元に座ると瞑想を始めた。

 精霊は久し振りに瞑想する人間を見た。

 男はその場所が気に入っらたらしく、

 時折、木の実を食べたり、川で水を浴びる以外は、

 そこで瞑想をして過ごすようになった。

 

 精霊は次第に興味が募ってきて、

 瞑想している男の心の中を覗いてみた。

 この男は前の男と違って、

 なぜだか瞑想していても

 心に迷いがあるようで落ち着きがない。

 それが気になったので、

 精霊はその男に心の中で

 語りかけてみることにした。


「清廉な心に覚醒の炎を燃やす偉大なる聖者に」

「畏れながらお尋ねします」

「あなたは瞑想しているようにお見受けしますが」

「瞑想で何を得ようとしているのでしょうか」

 精霊はそう男に尋ねた。


「大空よりも広い心を持つ大地の主にして生命の守護者よ」

「あなたに声を掛けていただき至高の光に触れる思いです」

「あなたの言う通り、私は瞑想をしています」

「瞑想によって、無の境地を目指しています」

「闇に根する心の考えを追い払い、清い心になろうとしています」

「ですが、心は次から次へと止め処なく思考を吐き出してくるため」

「私はそれに手を焼いています」

「思うような境地になれないのですが」

「これも修行だと思って続けています」

 男はそう精霊に答えた。


「偽りを切り裂く鋭い剣を持つ真理の具現者よ」

「無の境地とは何でしょうか」

「その境地になったとき、あなたは何を得るのでしょうか」

 精霊はそう男に尋ねた。


「大地を見渡し、あまねく慈愛の眼差しを注ぐ生命の神霊よ」

「無の境地とは心の中で何も考えない状態のことです」

「そのとき、私の心は何の汚れもなくなります」

「そうして清浄な心を持つことが私の瞑想の目指す処です」

「そうなれば、私は人間としての高みに立ち」

「すべての苦悩から解き放たれて」

「空のような晴れやかな気持ちで」

「人生を送ることができると信じています」

 男はそう精霊に答えた。


「未踏の頂きを目指す冒険者にして人々を導く聖なる案内星よ」

「何も考えない清浄な心は確かに素晴らしいかもしれません」

「でも、心は物事を考えるもの」

「果たして、何も考えずに人生を生きることなどできるのでしょうか」

「そして、それは意味があることなのでしょうか」

「かつて、私の師は瞑想で本当の自分を見つけよと言いました」

「それは心の中にある存在という真実のことです」

「あなたの言う無の境地は、どうもそれと違うようです」

「あなたは無の境地になることができると信じているのでしょうか」

 精霊はそう男に尋ねた。


「聡明なる風の知性にしてすべての迷える魂の解放者よ」

「無の境地とは何もない心でいること」

「それは実現できると信じています」

「そのために私はすべてを捨て去ろうとしています」

「持っているものはすべて捨ててここに来ました」

「それだけでも清々しい気持ちになれます」


「さらに、心の中の余計なものを取り去っていって」

「それがすべてなくなったとき」

「私は無の境地に到達するでしょう」

「すべてを捨て去ること」

「これ以上の何かがこの世界にあるでしょうか」

「自分が知らず知らずに世界から背負ってしまったものを」

「私は自分の肩から下ろしていきます」


「そして、重荷から解放されて」

「人間として自由に喜びに満ちた気持ちで」

「生きていくのです」

「それが私の真実になります」

「これが本当の自分になるということなのです」

 男はそう精霊に答えた。


空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。