神の声 第1章:天使と悪魔(1)

 僕は夢を見ていた。

 薄暗い森の中を僕は裸足でフラフラと歩いている。

 足の裏に触れる柔らかい土のひんやりとした感触が心地よかった。

 

 歩いて行く先に大きな岩が見えた。

 僕はそこに向かっている。

 その大きな岩の前で僕は立ち止まった。

 その岩にはくぼみがあった。

 よく見るとそれは奥へと続く洞窟になっている。

 僕は何も考えずそこから洞窟の中へと入っていった。

 

 中は暗かったが、歩くのに困らない程の光があった。

 僕は身体を壁にぶつけないように気をつけながら奥へと歩いていった。

 しばらくすると、大きく開けた場所に出た。

 光はそこで途切れた。

 そこは天井も壁も見えない、まるで暗闇の塊のような場所だ。

 僕は足元を確かめながら数歩ほど歩いた。

 暗すぎて一歩先に何があるか分からない。

 僕は危なくてこれ以上は先に進めないと思った。

 そこで立ち止まると暗闇の底に腰を下ろした。

 

 光るものは何もなく、目を開けても閉じても同じ闇がある。 

 静けさと漆黒が僕を包み込む。

 時折、水が滴る音が小さく響いて、静寂の中に溶けて消える。

 僕は暗闇をじっと見つめ続けた。

 なぜか心の中に幸福感があふれて、それで満たされていった。

 僕はずっといつまでもこのままでいたいと思った。

 暗闇と幸福感がひとつになって僕を溶かしていく。

 僕はきれいに溶けてしまって、ここには誰もいなくなった。

 自分という存在が消えてしまったように。

 僕はそうなることが当然のように感じた。

 そして、それに満足した。 

 

 どのくらいそうしていただろうか。

 突然、暗闇の中に小さな光が現れた。

 それはゆらゆらと動きながら、僕の方に近づいてくる。

 白い羽を蝶のようにためかせているように見える。

 近づくにつれて、それは人間程の大きさだと分かった。

 それは大きな白い翼を鳥のように広げて飛んでいる。 

 僕の目の前にそれは静かに降り立った。

 天使だ。

 天使は地面に足が着いたのを確かめると、そこでフーっと白い息を吐いた。

 その身体や服が暗闇の中で微かに白い光を放つ。


「なんだよ、誰もいないのか」

 天使は独り言のようにそう言って、あたりを見回した。

 僕がここにいることに気がついていないようだ。


「おいおい、ここにいるぜ」

 どこからか低いしわがれた声がした。

 暗闇の中から真っ黒い筋肉質の人間が現れた。

 牛のような二本の角を頭に生やしている。

 天使の光に照らされて、その姿が浮かび上がった。

 そしてニヤリと笑った。

 こいつは悪魔なのか。


「そういう現れ方をするなよ」

「全然、面白くないぞ」

 天使は眉間にシワを寄せてムッとした。


「ああ、すまねえな」

「気に障ったか」

「オレもいま着いたとこなんでな」

 悪魔はニヤついたままそう言った。


「まあ、いい」

「で、早速だが」

「そろそろ神についてどうするか決めないとな」

 天使は少し苛立ちながらそう言った。


「そうだな」

「人間どもが信じている神とやらをどうするかだったな」

「オレは神などいなくてもいいぜ」

「それで何も困ることはない」

 悪魔はそう言って肩をすくめた。


「だ、か、ら、それではお互いに困るだろう」

「また話を降り出しに戻すつもりか」

「神がいないとオレたちの立場が危うくなるんだ」

「そうなって人間に見向きもされなくなったらどうする」

「オマエなんか、ただのひねくれたサルにしか過ぎなくなって」

「誰も寄り付かなくなるぞ」

「オマエはこの前から何も考えてないな」

 天使はそう言うと悪魔を見下すような目をした。


「まあ、そう言うなって」

「結構、オレも考えたんだぜ」

「確かにオレたちは神の代役みたいなもんだ」

「人間どもはオレたちのやることの向こうに神を見ている」

「神がいるからオレたちは認められているというわけだ」

「だがな、神がいないと人間どもにバレたら」

「オレたちはホントに価値のない存在になっちまうのか」

「神がいなくても、結構やってけるんじゃねえのか」

「そうなったらそうなったで、いい具合になるかもしれねえぞ」

「つまり、オレたちが神になるってことだ」

 悪魔はニヤリと笑って天使を見た。


空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。