青の記憶(30)理解の極致

「青ー、居るかー」

 アンスロポスが部屋に入ってきた。


「はい、ここにいますよー」

 青が答える。


 星は音もなく深く青い光を放っていた。


「青、本当の自分について分かったことがあるから」

「聞いてくれ」


 青は微笑みながら黙って頷いた。


「うむ、オレは本当の自分が個人ではないと分かった」

「それは個人としての性質がない」

「個人としての性質はないが、それが自分だと分かる」


「いや、それ以外に自分などいない」

「瞑想でそれ以外の自分になることなどできないと」

「そう確かめたから、それは確信が持てる」


「それはひとつしかない」

「それ以外に自分などいない」

「いつでも戻れるところはそこだけだ」


「それは考えやイメージのようなものではない」

「考えやイメージがなくても」

「それはいつも変わらずにそこにいる」


「それは動かないで完全に静止している」

「静止する以上に静止することはできない」

「それ以上、どこかに動くこともできない」


「そこには時間がない」

「つまり、それは生まれたり」

「死んだりすることがないということだ」

「それはそれとして、ずっとそこにいたんだ」


「それは目には見えない」

「それはひとつしかないから」

「目が目を見ることができないように」

「在ると分かっているけど」

「対象物のように見ることは不可能だ」


「それはいつでもそこに在る」

「自分の心が穏やかなときも荒れているときも」

「それで何かが変わることもない」


「これが本当の自分だ」


「それは個人ではないから、誰にとっても同じ存在」

「すべては木の根のようにここでつながっている」


「すべての人、すべての生命、宇宙に在るあらゆるもの」

「そのすべてがこの自分でつながっていて」

「そこから宇宙を分け合っている」


「星はこのことをかすかに感じている」

「それを愛とか感謝という言葉で表現する」

「だけど、幾ら愛や感謝を高めていっても」

「この本当の自分にはたどり着かない」


「なぜなら、そういった思いは個人に属するものだからだ」

「個人の枠から出なければ、本当の自分は分からない」


「瞑想して自分の中心の存在を知って」

「それを個人ではないと認めたとき」

「その時だけこの本当の自分のことが分かる」


「それは誰かの言葉に影響を受けたり」

「信じ込まされたり」

「そういうことではない」

「自分自身で確かに分かることだ」


「この理解ですべてがつながる」

「この理解だけがすべての原点だ」


「いまは確かにそう分かるし」

「それが消えたり変わったりすることはない」


「その理解から、オレは世界を見ている」

「そして、この世界がそのまま在っていいと知っている」

「なぜなら、それはきっと一番最初のオレが願ったことだからだ」


「上手くは説明できないが」

「いまオレが本当の自分について」

「言葉にできることはそんな感じだ」

 アンスロポスは何かを確かめるように目を閉じて黙った。


 青も黙って微笑みながら目を閉じた。

 しばらく静かな時間が通り過ぎたあと、アンスロポスはまた話し始めた。


「個人を捨てることは、個人でなくなることではない」

「個人でありながら個人ではない」

「個人ではないけど個人でいることだ」


「それは矛盾しているが」

「存在はそんな矛盾ををも難なく飲み込んでいく」


「心の中に自分の中心が存在していること」

「それは個人ではないこと」

「そして、それは宇宙を飲み込んでいて」

「その、個人であって個人でないといった」

「矛盾さえも飲み込んでいる」


「このことを自分の中の存在を通してい知ること」

「これがオレの終着点だった」


「この終着点が個人に何かをもたらすことはない」

「いったい何をもたらすことができるというんだ」


「それは存在として在るだけで完全だ」

「それ以上のことなど何もない」


「個人の願望なんかはそれに比べれば微々たるものだ」

「それはどんなに頑張っても完全にはならない」


「この宇宙という変化の中にとらわれている限り」

「それは変化してしまう」

「変化するということは完全ではないということだ」


「宇宙の変化にも、その空間にも、時間にさえ影響されない」

「そんなものはこの存在しかない」


「あらゆる個人の願望はこの存在につながっている」

「結局は、どんな願望もこのことを知りたかっただけだ」


 アンスロポスはとりとめのないことを話していると知っていた。

 だけど、話し続けた。

 きっと、青には伝わるはずだと思った。


「存在から見れば、この世界は幻だろう」

「幻だけど存在している」

「世界は存在していいんだ」

「個人も存在していい」

「いいことも悪いことも存在していい」

「それを存在が許しているからだ」


「存在が許しているということは」

「自分が許しているということだ」


「それはそう信じるとか」

「無理やりそう思い込むとか」

「そういうことではない」


「自分の中心が個人ではない存在だと知ったとき」

「自然と分かることだ」


「だが、すべてが存在していいということを」

「個人は簡単に信じようとはしない」


「いくつもの疑問を」

「存在に何度も繰り返しぶつける」


「それでも、存在は個人が納得するまで」

「辛抱強く黙って真実を伝えようとしてきた」


「そして、オレは」

「個人を超えた自分は、矛盾を飲み込んで」

「ああ、そういうことなのかと」

「世界のすべてを受け入れた」


「オレは自分がこの宇宙で」

「取るに足りない貧弱な生命体だと知っている」

「だけども、同時にこの宇宙を成り立たせている」

「たったひとつの存在だということも知っている」


 アンスロポスがゆっくりと目を開けた。

 目の前で青が微笑んでいる。

 その青の姿がだんだんと透き通っていった。


 アンスロポスは何が起こっているか分からずに、

 ただそれを黙って見つめ続けた。


 そして、青は目の前から完全に消えてしまった。


 青はアンスロポスに何も言わなかった。

 アンスロポスはそこにひとり残された。


 静かな時間が透明な水のように流れていく。


 アンスロポスはふと気がついた。 

 消えたのは青ではない。

 消えたのはオレだと。


 アンスロポスは青になっていたのだ。

 そこに立っているのは、もうアンスロポスではなかった。


「オレは元々、青だったのか」

「そういうことか」

 青はそう言って微笑んだ。

 

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。