青の記憶(25)希望を持つこと

「青、来たぞー」

 アンスロポスが部屋に入ってきた。


「あっ、どうぞー」

 青はアンスロポスを迎えた。


「青、人生で希望を持つことは」

「良いことだろう」

「希望があるから」

「辛い時でも頑張って生きようと思う」

「希望を持つことは大事だろう」

 アンスロポスは力強く青を見た。


 星は何かを期待しているようだ。


「そうですね」

「希望を持つことは良いことですね」

「いや、希望こそが」

「人にとって最も大事なことかもしれません」

 青がそう言ったので、アンスロポスはホッとした顔をした。


「問題は希望とは何かということです」

「人それぞれに希望を持っていれば」

「相反する希望を持つ人もいるでしょう」

「誰かが希望を叶えると誰かが犠牲になる」

「そんなことも起こるかもしれません」


「そうなれば、犠牲になった人は」

「希望を失ってしまうでしょう」

 青はアンスロポスを静かに見た。


「うむ、確かにそういうことは起こるかもしれんな」

「だが、すべての人の希望を叶えることはできない」

「自分優先で相手を無視することもできるが」

「そうすれば、希望の輝きは失われる」

「…難しい問題だな」

 アンスロポスは腕を組んで天井を見上げた。


「ただ、すべての人が叶えられる希望があれば良いんです」

「誰にとっても共通の希望」

「それは…」

 青がそこまで言うとアンスロポスが口を挟んだ。


「それは、本当の自分を知ることだな」

「それがすべての人の共通の希望だ」

 アンスロポスは分かっているぞという顔をした。


「その通りです」

「それ以外に共通の希望はありません」


「もし、本当の自分を知るという希望を持ち」

「それを実現したとしても」

「傷つく人は誰もいません」


「そしてその希望を実現すれば」

「自分のことや世界のことを理解できます」


「そうすれば、本当の自分として」

「苦しみや悲しみから解放され」

「さらに、苦しみや悲しみの辛さを」

「避けたり恐れたりする」

「そんな必要さえなくなります」


「それに、希望さえ必要なくなります」

「本当の自分を知ることは」

「どんな希望よりも遥かに勝ることだからです」


「そして、すべての人の共通の希望であり」

「最高の希望である本当の自分は」

「誰にでも知る可能性が与えられています」

「ちょと話が脱線しましたかね」

 青はアンスロポスを見つめた。


「ちょっと分からないんだが…」

「本当の自分を知っても希望を持っても良いんだよな」

「たとえ本当の自分が最高の希望だとしても」

 アンスロポスは青を見返した。


「もちろん、希望を持っても構いません」

「心や身体は小さな希望を欲しがるでしょうから」


「だけど、それは本当の自分という」

「最高の希望からすれば」

「小さな断片でしかありません」


「本当の自分を知った後に」

「それが希望の小さな断片だと知って」

「そしてそれを持とうとしても」

「何の問題もありません」

「むしろ、それを無邪気に楽しむでしょうね」

 青がそう言ったので、アンスロポスは少しホッとした。


「そうか、だから本当の自分という希望を持つまで」

「何かの希望を持つということは続いていくんだな」


「そして、本当の自分を知ったときに」

「最高の希望は実現したから」

「希望を持とうが持たなかろうが」

「それで何の問題もなくなる」

「そういうことか」

 アンスロポスは何かにひらめいたように言った。


 星がパッと明るくなったようだ。


「そうですね」

「それは本当の自分を知ったときに」

「良く分かると思いますよ」


「それまでは小さな希望の断片に」

「まるでそれが唯一の希望のように感じて」

「必死にしがみついてしまうでしょう」


「ただ、そうしている人から」

「その希望を奪うことは忍びないことです」


「だから、それはそれとして」

「いつかその人が本当の自分を知ること」

「それが大切な自分の希望なのだと気づくまで」

「本当の自分はそこでじっと待っています」

 青は少し悲しそうな顔をした。


「何となく本当の自分をしるということに」

「希望が見えてきたような気がする」


「まだ、本当の自分を知ることが」

「最高の希望だとは思えないが」

「それは瞑想して本当の自分を知ったときに」

「分かれば良いんだな」

 アンスロポスはそう言って頷いた。


「確かに、言葉では何とでもいえますが」

「そこに実態はありませんからね」

「自分でそれを理解したときにしか」

「本当のことは分からないものです」

 青もそう言って頷いた。


「ふむむ、なるほどな」

「では、星に帰って瞑想してくる」

 アンスロポスはそう言って部屋を出ていった。


 星は困惑と歓喜が入り混じっていた。

 そして、静かになった。


 青はそれを心の中で感じた。

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。