青の記憶(23)直感

「青ー、入るぞー」

アンスロポスが部屋に入ってきた。


「はい、どうぞどうぞー」

青はアンスロポスを迎え入れた。


アンスロポスは椅子に座ると、

しばらく目を閉じて黙った。


青はアンスロポスが話すのを静かに待った。

星も静かに言葉を待っている。


「…あのな、青、直感とは何なんだ」

「説明が難しいんだが…」


「その、心に浮かんでくる言葉とか」

「こうしようと思う判断とか」

「それって何なんだ」


「それは自分の考えや判断なのか」

「もちろん、それは後から」

「そう考えた理由付けはできるかもしれん」


「だけどな、何でそう思ったのか」

「何でそんな決断をしたのか」

「本当のところは分からない気がする」

アンスロポスはそう言うとひとつため息を付いた。


「直感…ですか」

「ふむ、それは本当の自分からやってくる」

「言葉ではないんでしょうか」


「言葉と言っても、元々は無言ですが」

「つまりそれは、言葉ではないひらめきというか」

「それを自分の直感のように感じる」

「そういうことではないかなと」

青も説明しにくそうだ。


「その直感なんだが…」

「くだらないこともあれば」

「間違いもある」


「もし、本当の自分から来る何かなら」

「もうちょっと、何というか」

「正しさや重みがあってもいいんじゃないか」

アンスロポスはそう言うと青の顔を見た。


星からゴクリと喉を鳴らす音がした。


「確かに直感が正しいとは限らないし」

「どうでも良いことでも直感は働きますね」


「ただ、直感がどんな形になるにしろ」

「それは直感だということです」


「問題は、直感がどこから来るのかということで」

「直感が何を意味するのかは」

「実は直感の出処ほど重要ではないんです」


アンスロポスは黙って聞いている。


「つまり、直感の元をたどることが大切で」

「そのために直感は心が興味を引く形に展開されます」


「だから、それはくだらないことも間違いもあります」

「そこに直感に対する興味を持てたら」

「それでいいということです」

青はアンスロポスを見て、どうでしょうと言った。


「うむむ、直感の内容自体は」

「それほど重要ではないということか」


「どうしても直感の正確性や有効性が気になってしまうがな」

「直感が正しかったりすれば気持ちがいいしな」


「それにしても、直感の出処とか気にしたことがないぞ」

「その元が本当の自分だと言われても」

「あまり実感が沸かんな」

アンスロポスは腕を組んで天井を見た。


星から小さな戸惑いのざわめきが起こった。


「まあ、だいたいそんなもんです」

「直感というものがあると気が付くだけでも」

「ひとつ前進なんですよ」


「ただ、直感の正確性とかに目を向けてしまうと」

「そこで本当の自分への理解は停滞してしまいます」


「直感がどこから来るのかに意識を向けたとき」

「人は本当の自分へとまた一歩前進します」

「その疑問も直感なんですがね…」


「本当の自分への直感というものは」

「結構、頻繁に起こっています」


「ただ、人の心は」

「直感の正確性やその後に起こる物語に」

「意識を向けやすいため」

「本当の自分への直感を手放してしまいます」

「そこが残念なところです」

青は困った顔をして青を見た。


「人間の心っていうのは」

「何とも、面倒くさくできているな…」

「手招きしているようで」

「突然、突き放されるみたいな」


「本当の自分に近づいていくと」

「まるで本当の自分を知られたくないように」

「別の方向に興味をもたせようとしたり」


「オレはそうやって本当の自分の周りを」

「ただウロウロしているだけみたいだ」

アンスロポスはそう言って目を閉じた。


「そうですね…」

「それはこの世界ができた成り立ちに関係しています」


「この世界ができる前にさかのぼりますが…」

「物質的なものが何もなかったときに」

「ただひとつだけ存在だけはあったんです」


「その存在は意識することができて」

「そして、自分しかいない世界を眺めて」

「もっと世界を楽しみたいと思ったんですね」


「その瞬間に存在の身体が無数に分かれて」

「無限の空間に散らばっていったんです」

「そして、この世界ができたんです」


「存在はこの世界を楽しむために心と身体をつくり」

「自分でつくった世界を楽しむことにしました」


「ただ、この世界があまりにもリアルなため」

「それと接触しているうちに」

「心と身体もリアルになっていったんです」


「心や身体も存在でできていますから」

「それがリアルになっても」

「偽りということではないので」

「そこに何の不都合も起きません」


「ただ、それに伴って」

「存在自体のリアリティが」

「失われていきました」


「そして、存在は」

「自分とは心と身体だと信じるようになり」

「本当の自分は忘れ去られていったんです」


「でも、本当の自分が存在だということ」

「その真実は変わりありません」

「だから、存在は人の心の奥から直感として」

「ここに本当の自分がいると呼びかけています」


「それでも、存在は世界を楽しみたいという」

「原初的な興味も捨てられないので」

「なんとなく本当の自分に」

「拒否反応を起こしてしまいます」


「もし、それを知ったら」

「この世界の楽しみも消えてしまうと」

「そう思うからです」

ややこしい話ですよね、と青は言った。


「確かにややこしい…」

「オレたちは本当の自分と世界との間で」

「引っ張り合いをしているのか」


「そして今は、世界のリアリティが勝っている」

「だけども、直感という形で」

「本当の自分への呼びかけは続いているということか」

アンスロポスはフーっとため息をついた。


「自分が身体と心だと思っているところからは」

「この世界の全体像は見えてきません」


「だから、本当の自分を知ってしまうと」

「この世界も消えてしまうのではないかという」

「そんな思いも正確ではないんです」


「でも、身体と心のレベルからでは」

「本当に自分が存在になって」

「大丈夫なのかという確信が持てない」


「そんなジレンマの中になっても」

「存在は心の奥から」

「直感として呼びかけ続けます」

青は落ち着いた口調でそう言った。


「そうやって、本当の自分から」

「直感がやってくるのか」

「オレたちは今もそれとつながっているんだな」


「だけど、そのことを忘れて」

「それでも本当の自分を探している」

「それが世界の中にあるかもしれないと」

「そう思って」

アンスロポスは、小さくなるほどなと言った。


「本当の自分は失われることがない」

「失われることがないから」

「それは真実を伝えようとし続ける」

「このことが救いです」


「だから、瞑想で存在に触れ続けることです」

「そうすれば」

「いつか自分の心の構造が変わっていきます」


「そうすれば、本当の自分でありつつも」

「この世界を愛することができるようになります」

「なぜなら、この世界もまた自分だということが」

「それも真実だからです」

青は何かを確かめるようにアンスロポスの顔を見た。


「なんとなく」

「存在というものが身近にある感じがしてきた」

「また来る」

アンスロポスはそう言うと、

青の部屋を出ていった。


星に戸惑っているようなざわめきが起こった。

そして静かになっていった。


青はそれを聞きながら、

ただ目を閉じて静かに座っていた。

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。