青の記憶(20)仕事

「青ー、ちょっと教えてくれ」

アンスロポスは部屋に入ってきた。


「はい、どうぞ」

青がそう言った時には、

すでにアンスロポスは椅子に座っていた。


星は静かに聞き耳を立てている。


「青、仕事ってなんだ」

「生きている時には何かしら仕事をするだろう」

「仕事をしてお金を稼ぐ」

「そうして、人間らしい生活をする」

「だけど、その仕事だけで人生が終わることもある」

「自分を見つけるなんて余裕が無いことだってあるだろう」

「ただ、仕事をして生きていくことは大事だったりする」

「仕事は疎かにはできないよな」

「そのあたりのことはどうなんだ」

アンスロポスは青の目を見た。


「はい、まあ、そうですね」

「仕事をすることは大事です」

「仕事とは会社で働くだけではなく」

「人との関わりの中で活動するということですね」


「その仕事をすることで人に喜んでもらったり」

「社会の役に立ったりしますから」

「それで生活の糧を得られるのなら」

「やりがいも生まれてきます」

「仕事が自分の思い通りになれば」

「人生は充実したものに感じられるでしょう」

青はコホンと咳払いをした。


「ただ、それで完全に満たされるでしょうか」

「どれだけの仕事をやり遂げても」

「仕事には完全な満足がありません」

「仕事で完全な満足を求めようとすると」

「どこまでも仕事を追い求めていくことになります」

「そうして中途半端な満足のまま」

「人生はあっという間に終わります」

「これが仕事の問題点です」

青はアンスロポスの目を見た。


星は少しざわついている。


「うむ、仕事は大切だが」

「完全な満足という点では」

「何かが足りないんだな」

アンスロポスはそう言って腕を組んだ。


「そうなんです」

「もし、その仕事の合間に」

「本当の自分を知ることができたなら」

「そこで人は満たされます」


「だから、仕事で満たされる必要はなくなります」

「そうすれば」

「すでに完全な満足を手にしているので」

「仕事をバリバリと頑張ってもいいし」

「自分のペースで適度に仕事を楽しんでも良い」


「生活のためだけに仕事をすることだって」

「仕事を生きがいとして取り組んでも」

「そこに特定の正しさはななって」

「その人の好きなようにすれば良くなります」

青はそう言ってアンスロポスを見た。


「そうか…」

「では、本当の自分を知るために」

「仕事をしないという選択はあるのか」

「そういう生き方の人もいるだろう」

アンスロポスは足を組んで青を見た。


「確かにそういう人もいるでしょう」

「それはそういう生き方なので良いのではないでしょうか」

「ただ、それで自分が見つかるかどうかは別問題です」


「間違えないようにすることは…」

「本当の自分は動かないので仕事をしません」

「それと同じになるために」

「一日中、仕事をせずにじっとしていても」

「本当の自分になるわけではないということです」


「それは全く意味が違います」

「もしそう思っているのであれば」

「何か思い違いをしている可能性が高いですね」

青は静かにアンスロポスを見た。


「そうなのか」

「まず、自分を知るということを優先して」

「それまでは仕事をしない方が良い気もするが」

アンスロポスは首を傾げた。


「本当の自分を知ることは」

「瞑想によって心の中で起こる理解です」

「生き方の違いによって起こることではありません」


「本来、それを知ることは」

「仕事をするとかしないとかの問題ではないんです」

「もしかすると、仕事をしないで自分探しをする」

「そういう考えもあるかもしれませんが」

「何かしらの仕事をする中で自分を知ったほうが」

「それがより分かるというか…」


「仕事をしている自分と何もしていない自分が」

「ひとつの中に同居しているという」

「そういうコントラストがあると」

「より本当の自分への理解が深まる気がします」


「もし、仕事をしていないと」

「両方とも動きが少ないため、それが分かりにくい」

「だから、本当の自分をズレて理解する可能性があります」

「何も活動していない自分が本当の自分なんだとか」


「本当の自分はどんな仕事をていても」

「絶対に変わらなくそこに在るものですから」

「仕事をしてないときだけ」

「それが現れるというものでもありません」

青は喋りすぎて疲れた顔をした。


「そうか」

「では、自分で必要だと思う仕事をしながら」

「同時並行で本当の自分を知ればいいんだな」

アンスロポスは確かめるように青に言った。


「そうですね」

「そうして、本当の自分を知れば」

「完全に満たされます」


「本当の自分を知って、すでに満たされていると知ったなら」

「そこで自分に足りなかった答えが見つかります」

「そして、仕事をするということが自由になります」

「仕事で満たされなければならないという制約がありませんから」


「アンスロポスさんも、星での役割があるでしょう」

「それを頑張ってください」

「そして、本当の自分を知って満たされてください」

「そうすれば、私の言った意味が良く分かります」

青はそう言って静かにアンスロポスを見た。


「そうか、青が言うならそうなんだろうな」

「ただ、それは自分で確かめないと分からないことだな」

「話としては分かった」

「今日はそういうことにしておく」

アンスロポスはそう言うと立ち上がって部屋を出ていった。


星はまた色々な声で騒がしくなり、そして静かになった。


青はそれを聞いてホッとするように微笑んだ。

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。