青の記憶(13)居場所


「青~」

アンスロポスが部屋に入ってきた。


「あー、どうも」

青はアンスロポスを出迎えた。


アンスロポスは無表情で椅子にドカッと座った。

少し疲れているようだ。


星は静かに何かを待っている。


「青、あのなー」

「瞑想で自分のホントのことを確かめてみた」

「それでわかったことは、今ここに自分が居るということだけだ」

「それは確かなことだった」

「でもな、やっぱり身体はあるし、心は色々考えている」

「それは何にも変わらんぞ」

「青、それで良いのか」

それがわからん、とアンスロポスは投げやりに言った。


「アンスロポスさん、そこが分かれば進歩ですよ」

「確かなことは居るということだけなんです」

「それ以外は、二次的に起こることです」

「つまり、身体や心は居ることよりも離れている分」

「不確かなことになります」

青はそう言って、アンスロポスに微笑んだ。


「うむ、そうなのか」

「それで身体も心も何も変わらなくて良いのか」

「それが分かることで、変わることもあるんじゃないのか」

「そうでなければ、青、本当の自分を知る意味が分からんぞ」

アンスロポスは青の言うことに納得できないようだ。


「確かに身体も心も変わらないかもしれませんね」

「でも、それで良いんです」

「大きく変わったのは、アンスロポスさんの居場所です」

「それが身体や心から、ただ居るというところに変わる」

「これが大事なところです」

青はそう言って、アンスロポスを優しい目で見た。


「そう言葉では簡単に言うが」

「何か、足りない気がしてしまうぞ」

「これは何でなんだ」

アンスロポスは腕組をして青を見た。


「もし、居るということを知って」

「身体や心が変わってしまったら」

「自分が誰かを知ろうとしていたのに」

「段々と身体や心を変えようとしてしまうんです」

「そう変わることが」

「自分を知ることだと思い始めてしまいます」

「だから、身体や心は今まで通り変わらないほうが良いんです」

青は、もう一度それで良いんですと言った。


「じゃあ、生きるって何なんだ」

「それは人生を良くしていくことじゃないのか」

「そのために自分を知ろうとしていたんじゃないのか」

「それで何も変わらないなら、意味がないじゃないか」

アンスロポスはまだ納得がいかない。


星も小さな声でアンスロポスに声援を送っている。


「まあ、お気持ちはわかります」

「でも、人生を良くするって」

「本当にどういうことか分かりますか」

「良いことばかり起こって、幸せに生きることでしょうか」

「そんなことは不可能ですよ」

「なぜなら、この宇宙は常に変化しているからです」

「それが宇宙の摂理なんです」

「それを変えることなんてできやしません」

青はゴホンと咳をして続けた。


「変えることができるのは自分の居場所です」

「元々、身体や心はアンスロポスさんの居場所じゃないので」

「そこから本来の居場所に変わることは自然なことです」

「この変化は宇宙の恩恵の中で行われます」

「宇宙は変化するものですから」

「自分の確かな居場所があること」

「これはある意味、素敵なことじゃありませんか」

「そして、その居場所は決して変化することがないんです」

「宇宙の摂理から離れて」

「唯一、変わらないという場所なんですよ」

「良いことや幸せなんて」

「このことに比べたら小さいことなんです」

「この自分の居場所の変化が生きるということです」

「生きるということの本質なんです」

青は一気にたくさん喋ったので、少し疲れた。


「うむむ、言われてみればそうかもしれんな」

「だが、まだ納得したわけではない」

「ただ、青の言葉でそうかもしれないと思っただけだ」

「青は、無理やり信じるなと言ったよな」

アンスロポスはそう言って青を見た。


「その通りです」

「私の言うことを信じる必要はありません」

「アンスロポスさんの真実を信じてください」

「私の言葉はただのガイドに過ぎません」

「押し付けようとも思わないし」

「信じないと大変な間違いが起こるとも言いません」

青はそう言って笑った。


「どうすれば、それが分かるんだ」

「なかなか納得がいかないんだよな」

「やっぱり、瞑想しかないのか」

アンスロポスはそう言って空を仰いだ。


「自分で納得するためにはそれしかありませんね」

青は椅子に深く腰掛けながらそう言った。


「では、また瞑想してくるか」

アンスロポスは立ち上がると、

そう言って部屋を出ていった。


星はにわかに騒がしくなって、

そして小声になっていった。


青は目を閉じてそれを黙って聞いていた。

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけます。それを自分の拠り所にすることで、人はその真実と共に蘇り、新しい自分として生きることを始めていきます。