青の記憶(11)限界点

「青、いるかー」

アンスロポスが部屋に入ってきた。


「いつでも、ここにいますよー」

青はすました声でそう言った。


アンスロポスはドカッと椅子に座った。


「青、あれだな、あれが個人かどうかの話」

「瞑想してみたが、あれは個人とも言えるしそうでないとも言えるな」

「個人だと思えるのは」

「それがオレの心の中にあるからだ」

「個人でないと思えるのは」

「そこに個人に必要な性質がないからだ」

アンスロポスは椅子に座って腕組をした。


星は静かだが、戸惑っている空気が漂っている。


「ほー、それを瞑想で吟味したんですね」

「確かにアンスロポスさんの言っていることは分かります」

「では、それが個人ではないとするなら」

「どんな支障が出てくるでしょうかね」

青はにこやかな顔でそう言った。


「うむ、個人でないとするなら…」

「いま信じている自分が揺らいでくるだろう」

「いままで自分とは個人だと思っているからな」

「それで、自分が個人と切り離されれば」

「ますます自分が誰だか分からなくなる」

「分からなくなるから、そんなことはどうでも良くなる」

「どうでも良いから、他に確かな自分を探そうとするだろう」

そんなとこか、とアンスロポスは低い声で言った。


「そう、それを個人じゃないと認められない」

「そこあたりが理解の限界点になって」

「そこからまた戻って、自分探しがループしていくんです」

青も低い声で言った。


「じゃあ、それが個人ではないと認めなければ」

「そこから先に進めないということか」

アンスロポスは天井を仰いだ。


「その通りです」

「それを認めなければ、何の真実も分からないままになります」

「でも、アンスロポスさんは自分が個人ではないかもしれないと」

「言葉でそう分かってもいますから」

「そこを瞑想で吟味すれば、その限界点を超えるかもしれませんね」

青はアンスロポスに、あと少しですと言った。


「そのあと少しが進まないんだな」

「なんかこう、そうはっきり分かる決定的な何か」

「そういうものないのか」

アンスロポスは助けを求めるように青を見た。


「決定的なことは瞑想で分かるはずです」

「瞑想で分かることを正直に認めることです」

「瞑想をこうあるべきという妄想で覆っていては」

「本当のところは見えてきませんから」

青はきっぱりとそう言った。


「そんなもんなのか」

「瞑想で正直にか」

「そのつもりでいたが、そうではなかったのか」

「オレの何が間違っているんだ」

アンスロポスはそう言って、腕を組んで目を閉じた。


「瞑想で何が真実かを」

「澄んだ目で見ることです」

「それしかありません」

これ以上の方法は何もないでよ、と青は言った。


「それは時間がかかることなのか」

「すぐに分かりたいものだが」

アンスロポスは少し苛立っているようだ。


「それは時間がかかるかもしれませんね」

「何しろ、いままで自分だと思っていたものを」

「自分ではないと完全に見破らなければなりませんから」

「その見切りをつけるのに時間がかかります」

それは仕方がない、と青は言った。


「それは時間がかかるけど」

「瞑想して時間をかけて分かれば良いんだな」

アンスロポスは自分に言い聞かせているようだ。


「はい、それしかありません」

「そして、それが一番の近道なんです」

青はそう言って微笑んだ。


「そうか…」

「では、また来る」

アンスロポスは静かに立ち上がって星に帰っていった。


星は一度騒がしくなり、そして静かになった。

青はそれを聞いて静かに微笑んだ。

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけます。それを自分の拠り所にすることで、人はその真実と共に蘇り、新しい自分として生きることを始めていきます。