青の記憶(7)最高のこと

「青、いるかー」

「また教えてくれ」

アンスロポスが青の部屋に入ってきた。


「ここにいますよ、アンスロポスさん」

青はこの部屋から出たことがない。


「おい、青、本当の自分って変わらないんだろう」

アンスロポスは少々気の抜けた声でそう言った。


「はい、もちろん本当の自分は変わりませんよ」

青は当然といわんばかりに答えた。


「それならオレは本当の自分が分かったよ」

アンスロポスは得意気に言う。


星は騒がしさが消えて静かだったが、

時折、誰かが小声で喋っている。


「ほう、やっと分かりましたか」

青はアンスロポスの顔を確かめながらそう言った。


「分かったとも」

「自分は自分なんだよな」

「探している自分が本当の自分なんだ」

「そうだろ」

アンスロポスは青の顔色を見ている。


「その通りですよ、アンスロポスさん」

「よく分かりましたね」

青は素直にアンスロポスを褒めた。


「うむ、それは分かったんだが」

「それだから、どうなんだ」

「なんか良いことでもあるのか」

アンスロポスは何かが腑に落ちないようだ。


「それが分かったからといって」

「それ以上、何も良いことなんかありませんよ」

「それが分かることが、最高のことですから」

青は本当に分かってますか、という顔をした。


「そうなのか」

「オレは本当の自分が誰だか分かったら」

「何か良いことがあると期待していた」

「星のみんなもそう思っていたぞ」

「だけどな、一所懸命に自分を知ろうとして」

「それで、やっと分かったと思ったら」

「それでお終いということが、どこか納得できない」

アンスロポスは、そう言うと困った顔をした。


「まあ、この自分を知ってからが、また面白いところです」

「これから、さらに深い自分を知っていくんですから」

青は、これが始まりですと言った。


「なんだ、これが終わりじゃないのか」

「本当の自分を知ることが最高のことじゃないのか」

アンスロポスは青の説明がまだ釈然としない。


「本当の自分を知ることは最高のことですよ」

「でも、それをアンスロポスさんが」

「ちゃんと理解していくこと」

「そのことがこれから始まるんです」

青は楽しそうな顔をした。


「理解していくことって、どういうことだ」

「まだ、なぞなぞは続くのか」

アンスロポスはうんざりした顔になった。


「そりゃそうです」

「本当の自分を知ることはアンスロポスさんにとって」

「ようやく正しいスタートラインに着いたということです」

青はこれからが本番ですと言った。


「では、これから何を知ればいいんだ」

アンスロポスはモヤモヤしている。


「そうですね」

「まずは…」

「アンスロポスさんが知った自分とは」

「それが個人かどうかというところかな」

青は微笑みながらアンスロポスを見た。


「なんだって、個人かどうかだって」

「それは個人に決まっているじゃないか」

「青、それは変な質問だぞ」

アンスロポスは青の言っていることが分からない。


「ふむふむ、やはりそのあたりの理解ですかね」

「アンスロポスさんが知った自分は何かということ」

「そのことをよくよく瞑想で吟味してください」

青はアンスポロスの理解のその先を見ている。


「吟味も何も…」

アンスロポスは困惑した。


「ここからがスタートですよ」

「瞑想して、よくよく吟味してください」

「アンスロポスさんなら分かるはずですよ」

青はアンスロポスを励ました。


「わかったよ、瞑想して自分自身を吟味してみるか」

「何も変わらないと思うがな」

そう言い残して、アンスロポスは部屋を出ていった。


星がまたにわかに騒がしくなった。


それを聞いて、

青は指でアゴをさすりながら、微笑みを浮かべた。

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。