ウロボロスの回廊 第8章(1)

 僕はあの浮遊感覚になり、それから勢いよく静寂の暗闇の中を落ちていった。ハルさんの存在は感じられない。

 落ちていく先に光の輪が見えた。そしてその光の中を通過した。その先はまた闇の世界だ。振り返ると目の前にあの光る輪があって、僕はそこから離れていく。

 僕はあの輪から出てきたと分かった。前を向くと、最初に見た強烈な光を放つ光源がある。あれが生体への入り口だ。

 ハルさんはどうしたのだろう。全く気配がない。でも、待ってはいられない。ハルさんの願いのためにも、今度こそ生体インストールを成功させる。

 僕は強烈な光に向かって移動していった。そして、その光に吸い込まれていった。そこは見渡す限り光しかない世界だった。すべてが白く輝いている。

 その光によって、僕は自分がバラバラにされるような感覚を覚えた。小さな粒子になって四方八方に飛び散った。その粒子が再び集まって、美しい幾何学模様で結ばれていく。僕はそこから離れた場所で、そんな光景を見ている気がした。

 突然、パシッと電気を消したように目の前が真っ暗になった。身体が強く押し付けられて息ができない。何とか落ち着いて耳を澄ますと、微かに聞き慣れた機械音がする。

 僕は自分の身体を感じた。狭いところに閉じ込められて、身動きができない。息が苦しくなってもがいた。気を失いそうになったとき、口から何かがスポッと抜けて楽になった。

 ハアハアと何度も深く息をする。真っ暗な目の前には壁があるようだし、まだ手足は思うように動かない。身体を無理やりくねらせ、パニックになりそうになったとき、プシュと音がした。

 目の前の壁が音もなく動いていった。薄緑に暗く光る天井が目に映る。僕は黙ってそれを見て、冷静に状況を理解しようとした。

 ここはあの小部屋か。身体は動かせないが、目だけは動かせた。あの小部屋の実体だ。僕は生体起動に成功したようだ。

 身体を動かそうとすると、しびれるような痛みの感覚が起こった。僕はその痛みで思うように動くことができない。しばらくじっと我慢していると、その痛みが薄らいでいって、少しずつ身体を動かせるようになった。

 カプセルの蓋は完全に開いていた。僕は身体を気遣いながら、慎重にゆっくりと上体を起こした。

 身体の感覚が仮想現実のときと全く違う。重くて自由にならない。筋肉や骨がギシギシきしんでいるようだ。呼吸や皮膚感覚にも違和感がある。何だこれは。

 隣のカプセルに目を向けると…。閉まったままだ。

 壁のパネルに目を向ける。二つのパネルが明るくなっている。

[インストール完了…]

 10のパネルにそう表示されていた。そして、プッと音がして、パネルの電源が落ちた。

[インストール中…]

 9のパネル、ハルさんのパネルだ。まだインストール中の表示だ。

 僕はまたカプセルに横になった。身体の感覚に慣れなくて、同じ姿勢を保てない。僕は顔を横に向けて、そのまま隣のカプセルを見つめた。

 早く来てくれ。

 カチッとクリック音がした。パネルの表示が変わった。

[インストール完了…]

[再設定中…]

 カプセルは動かない。

[HALu:9xのファイルが見つかりません…]

[human:HALu:9xのファイルが壊れています…]

 パネルの表示が変わる。カチッとクリック音がして、パネルの電源が落ちた。僕はじっと真っ黒になった画面を見続けた。ゴクリと重いつばを飲み込んだ。


(続く…)第8章(2)

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。