15:ドライブする夢(9)最終話

僕は走る車に乗っていた。


あら、目が覚めたの。

マギーさんがそう言って僕を見た。


ええ、と僕は答えた。

マギーさんが、あははっと笑った。


そして、僕の頭を軽く撫でた。

あなたの名前はジンではないのよ。

マギーさんはハンドルを握ったまま、

僕に告げた。


それでは僕は誰なのですか。

マギーさん、知っているのなら教えてください。

僕はマギーさんに怒鳴った。


それは私の口からは言えないのよ。

あなたは自分で自分を知らないと。

マギーさんは困った顔で笑った。


空が黒くなっていって、雨が降り出した。

それはすぐに土砂降りの雨になった。


車のワイパーを激しく動かしても、

前が見えない。


マギーさんは車を止めた。

車を叩く大粒の雨の音が車内に響く。


マギーさんは僕を見つめた。

いま私が言えることは、

私は君を愛しているということ。

君も私を愛しているということ。


僕はマギーさんを見つめた。

僕たちは黙って見つめ合った。


いつの間にか雨が上がっていた。

太陽が雲間から輝き、

大地を明るく照らしている。


そこは砂漠ではなく緑が眩しい草原になっていた。

鳥たちが空を飛び、数頭の馬がのんびりと草を食んでいる。


僕は車から降りて深呼吸をした。

瑞々しい空気が、

身体中に染み込んで生き返るようだ。


マギーさんも車から降りてきて、

そして僕の手を握った。


僕はこの世界を眺めながら、

思わず、あははっと笑った。


そして、マギーさんを見た。

マギーさんも僕を見て、

あははっと笑った。


僕は景色を眺め続けた。

その景色はどんどん移り変わっていく。


草原に水があふれて、

それが小川となって流れ出した。

川べりのあちこちに小さな白い花が咲き出した。


小川には魚が群れて泳ぎ、

ハチが蜜を求めて、

草原を忙しそうに飛び回る。


所々で白樺の木が空に向かって伸び始めた。

鮮やかな緑の葉が光を映してキラキラと風に揺れる。


その風が運んでくる音や匂いが、

この世界の存在を際立たせた。


僕はその中に透明な存在として息づいていて、

そこが自分の居場所のような気がした。


草原の向こうから、

ジャガーが僕の方にゆっくりと歩いてくる。


そして、僕の目の前でジャガー男になった。

これで分かっただろう。

そうジャガー男は僕に言った。


オレたちは消えなくてはいけない。

ここにいてはいけないんだ。


世界の後ろに戻るんだ。

もう、人間になろうとするな。

そう言って、ジャガー男は透明になって消えた。


だが、そこに僕はいなかった。

僕がジャガー男だった。


マギーさんもいなくなっていた。

僕がマギーさんだったからだ。


それどころか、この世界が僕だった。

僕がこの世界を創った。


僕はハッとした。


人間になりたくて、

僕がこの世界に入り込んだから、

それで世界は秩序をなくしてしまった。


僕の好奇心が世界の混乱を招き、

世界の混乱は僕を振り回した。


世界は僕を振り払おうとして暴れ、

僕の分身であるマギーさんやアッシュは、

見かねて僕を連れ戻そうとした。


僕が世界の後ろに消えれば、

世界は平穏さを取り戻して、

瑞々しい生命の時間を紡ぎ出していく。


そうだった。


そんな考えだけが、透明な空気の中に現れて、

そして、晴れ渡る空へと散っていった。


そこで僕は世界に目覚めた。


(終わり)

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。