14:天国にだれも来ない(2)

しばらくして、天使が戻ってきた。  


神さま、バッチリ宣伝しておきました。 

天使はニコニコしながら報告した。  


おお、早いな。 

では、楽しみに待つとするか。 

神さまも今度は誰か来るぞと期待した。 


しばらくして、ひとりの男がやってきた。 


来ましたよ、神さま。 

天使がそうささやく。 


おお、来たな。 

お客様一号じゃ。 

神さまはニッコリ笑った。 


神さまと天使は人間を出迎えに行った。 


あのー、ここは天国でしょうか。 

その男は少し心配そうに聞いてきた。 


そうです、ここは天国ですよ。 

天使はニコニコして男に答えた。 


神さまになれるって、ホントですか。 

男は天国のシステムをちょっと疑っているようだ。 


はいはい、ここに来れば、 

どなたでも神になれますよ。 

天使は神さまを見て、 

そうですよねぇ、神さま、と言った。 


コホンと神さまは咳払いをした。 

そうじゃ、ここに来れば神になれる。 

神であるワシが言うのじゃから、 間違いはない。 

そう男に断言した。 


そうですか、それは楽しみです。 

そう言って、男もニッコリした。 


で、神さま…ですよね。 

お会い出来て光栄です。 

男は改まって神さまにお辞儀をした。 


神さまは、それにうむっと頷く。 


その、それで私はどうすればいいんでしょうか。 

男は神さまに聞いた。 


そうじゃの、まずは、神見習いからやってもらおうかの。 

神さまは男にそう言った。 


神見習い…ですか。 

男はちょっとがっかりしたようだった。 


天使は、聞いてないよ、その話…、 

という顔をして神さまを見た。  


まあ、神見習いとして、天使と一緒に働いてもらう。 

それから後に、神として認められることになる。 

そういうシステムじゃ。 

神さまは天使を無視して、得意気に言った。 


神さまはあまりプランを立ててないようだぞ。 

話が暴走しなければいいけど。 

天使は横で聞いていてハラハラした。 


分かりました。 

では、神見習いになります。 

男は、よろしくお願いします、 

そう神さまに笑顔で言って頭を下げた。 


えっ、もうちょっと疑ったほうが 良いんじゃないの。 

天使は驚いて男を見た。 


神さまはこの流れでどんどん話を進める。  


よろしい。 では、早速、仕事をしてもらおう。 

そう言って、天使と神見習いを交互に見た。 


神見習いは天使とともに、 

人間たちにもっと天国を宣伝するのじゃ。 

神さまは天使と神見習いにそう命令した。 


ええっ。 天使はびっくりしたが、神見習いがいるので、 

あからさまに逆らうこともできない。 


はい、分かりました。 

天使さん、よろしくお願いします。 

神見習いは目がキラキラしてやる気満々だ。 


…この男、かなりお人好しだ。 

天使はがっかりして、涙目で男を見た。 


二人は天国を出て、地上界への道を歩き出した。 


おい、神見習い。 

天使は神見習いの男にひとこと言いたくなった。 


はい、天使さん、何でしょう。 

男はニコリと笑って聞き返す。  


あのな、あんまり神さまの言葉を真に受けない方が良いぞ。 

神さまは、あまり考えなしで言うお方だから、 

注意しないと、とんでもないことをやらされるハメになる。 

天使は少し低い声でそう言った。 


そうなんですね。 

まだ、ここのしきたりとか、 

その暗黙のルールみたいなものは分からないもので。 

神見習いは、すみませんと天使に言った。 


まあ、それは仕方ないな。 

だんだんと慣れると思うけど、 

あんまり神さまのペースに引き込まれないようにな。  


あれでも、一応、神さまだから、 

わりと命令は絶対だったりする。 

自分は神さまお付の天使だからな。 

命令に逆らうことはできない。 


だから、命令される前に、 

おかしいことはおかしいと言わないとな。 

こっちが困ることになる、 

天使はそうしみじみと語った。 


だいたいこの話もおかしいだろう。 

天国に行けば神になれるとか。 

実際に神になった人間がいれば、話も分かる。  

だけど、まだ神見習いがひとりだけだぞ。 

それで、天国に行けば神になれますと 宣伝できるわけがない。  


結局、ウチらは神さまの思いつきの片棒を担いでいるのさ。 

無茶振りに慌てているウチらを見て、 

神さまはニヤニヤしているのかもしれない。 


天使は納得がいかないという話を 

道すがら神見習いに滔々と話をした 


そうしていうちに、天界宿場町に着いた。 

ここは地上界の果て、 

死人が天国に行くために立ち寄る休憩所だ。 


そこは死んだ人間であふれていた。 

なぜか出店があったりして、賑やかな様子だ。 

みんな楽しそうに町を歩いている。 


神見習いは、なつかしいなぁと呟いた。 


そんな神見習いを見て、天使が言った。 

おまえ、よくこんな楽しそうなところから、 

あの天国に行こうという気になったな。 


ええ。 でも、百年くらいここにいると飽きてきて。  

そのまま地上界に戻る者がほとんどだったんですが、 

たまたま、天国で神になれると聞いたものですから。  

ちょっとした好奇心というやつですかね。 


でも、本当に神さまに会えて、 

それだけでも嬉しかったです。 

神見習いは嬉しそうに話した。 


そんな神見習いを見て、天使は情け心が出てきた。 

おまえ、良いやつそうだから教えておくけど、 

神になるれるという保証なんてどこにもないぞ。 


実はあの噂を流したのは自分で、 

その話は神さまの思いつきだ。 

天使は神見習いに正直に話した。 


ええ、まあ、経緯は自分には分かりませんが、 

神さまがそうしろというのならやってみて、 

その後のことは、そのときに考えます。 

神見習いは生真面目そうに言った。  


あーあ、それじゃあ遅いんだよね。 

天使はそう言いそうになったが、 

いまの神見習いに

何を言ってもダメだなと思って口を閉じた。 


その代わりに、 

じゃあ、神さまの命令通り、 

天国の宣伝活動をするか、と言った。 


どうやって宣伝活動をするんですか。 

神見習いは天使に聞いた。 


どうやってって、簡単だよ。 

みんなの耳元でささやくんだ。 

天国に行って神になろうってね。 

天使はさも当たり前だろうという顔で言った。  


簡単なんですね。 

そういえば、そのささやき、 

私も聞いたかもしれません。 

神見習いは真顔で天使に言った。 


そうだよ。 

だから、おまえは天国に来ちゃったんだな。 

しかも、おまえひとりだけ。 

と天使は心の中で思った。 


じゃあ、ふたりで手分けして、 

ささやき作戦を始めるぞ。 


人の反応は気にしなくていい。 

いい反応なんてないからな。 

とにかく、ささやきまくる。 

ささやいて離れ、 

次の人間にささいて離れるを繰り返すんだ。 

そう天使は神見習いに言った。  


わかりました。頑張ります。 

神見習いは、ちょと緊張した面持ちで答えた。 


天使と神見習いは人混みの中に入っていった。  


ひとしきり時間が経ってから、 

天使は神見習いを見つけて、終わりにするぞーと言った。  


神見習いは天使のそばに来て、 

いやー、疲れました、と言った。 


変な顔で見られたり、シッシとやられましたよ。 

まあ、そんなもんだ。気にするな。 

神さまの命令はこれでやり遂げたんだ。 

天使はそう言って、 さあ戻ろうと天国への道に目を向けた。 


何人くらい来ますかね。 

神見習いはそう天使に聞いたが、 

天使は、どうだかね、と言うだけだった。 


帰り道は疲れていたせいか、 ふたりとも黙って歩いた。 


…続く

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけていきます。そこを自分の拠り所にするとき、新しい自分の人生が始まっていきます。