11:そこを突破できない


そこを突破できない。 

大王はそう考えた。  


金銀財宝はいくらでもある。 

そして、それを自由に使うことができる。 

それで腕のいい料理人を雇い、 

毎日ごちそうに舌鼓を打つ。 

景色のいい場所に宮殿を建て、 

そこでのんびりと一日を過ごす。 

大王はその財力で何でもできた。 

でも、そこを突破できない。 


美しい妻が何人もいる。 

気に入った美しい女性がいれば、 

自由に妻にすることができる。 

毎日、甘くて楽しい快楽の体験を重ねていく。 

大王は望むだけ満たされた日々を送ることができた。 

でも、そこを突破できない。 


王国の大きな仕事をたくさん手がけている。 

誰もができないような決断を下し、 

前例のない事業を成し遂げる。 

そこには困難を乗り越える達成感があり、 

人生を生きている充実感があった。 

でも、そこを突破できない。 


健康でいくらでも長生きすることができる。 

身体に良いものを食べ、 

最高の良薬で病気を癒すことができる。 

望むならば千年をも生きることができるだろう。 

心はいつも若々しく、

活力にあふれていた。 

でも、そこを突破できない。 


望んでいることを実現させた、 

その先には何があるのだろうか。 

満たされることに何を望むのだろうか。 


大王は考えた。 

どんなに望みが叶っても、 

まるで中途半端で完結されない物語のように、 

得体の知れないモヤモヤしたものが 

視界を塞いでいるのを感じる。  


どれだけ財宝があっても、 

誰もが羨むような妻が何人もいても、 

やりがいのある仕事をしていても、 

身体が健康でいつまでも若々しくても、 

そのモヤモヤを突破することができない。  


ついに大王は神に尋ねた。 

神よ、そこを突破することはできるのだろうか。 


神は大王の前に現れて答えた。 

大王よ、そこは突破することができる。 


神は続けて言った。  

いつか人間が人生で「突破できない」と思うことを見越して、 

その時のために、突破できる道を準備しておいた。 


その道を見つけて、そこを通った者は、

「なるほど、突破できた」と分かるはずだ。 


それはどれだけ財産や権力があっても、 

どれだけの甘美な快楽であっても、 

どれだけの大仕事を成し遂げる力があろうとも、 

どれだけの健康と活力に恵まれていても、 

この道には到底及ばない。 


これは選ばれた者だけが通ることを許された道だ。 

選ばれた者とは、 

大王のように何をしても満足することがないと 

分かった者のことだ。 


なるほど、確かにそれは私のことだ。 

神の言葉を聞いて、そう大王は思った。 


大王は神に尋ねた。 

神よ、その突破できる道とはどこにあるのだろうか。  


神は答えた。 

大王よ、それはそなたの心の中にある。 


私の心の中にあるとは。。。 

そんな道は見たこともない。 

大王は訝しんだ。 


神よ、私は自分の中にそんな道など見たことがない。 

本当にそんな道が私の中にあるのだろうか。 


大王よ、その道は見えないのが当たり前。 

なぜなら、心の中は大王が持ち込んだものでいっぱいだ。 


それをどかさなければ、その道は見えてこない。 

うむ、たしかに私はいろいろなものを持ち込んだ。 

大王はそれを認めないわけにはいかなかった。  


大王よ、そなたは何を心の中に持ち込んだのか。 

神が尋ねた。  


神よ、私は欲を持ち込みました。 

何でも自分のものにしようとしたのです。 

物欲、権力欲、食欲、性欲、そういった欲が心の中にあります。  


大王よ、ではそれをどかしてみてはどうかな。 

神は大王にそう提案した。 


大王は心の中から欲を捨ててみた。 

だが、その道は見えてこない。 


神よ、まだ道は見えてきません。 

大王よ、他に何か持ち込んだものはないかな。  


神よ、私は感情を持ち込みました。 

私は嫉妬や愚かさで感情を自分のものにしようとしました。 

私の心の中の歓びや悲しみ、怒りはそこから生まれてきます。 


大王よ、それではそれをどかしてみてはどうかな。 

神はそう大王に提案した。 


大王は心の中から感情を捨ててみた。 

だが、その道は見えてこない。 


神よ、まだ道は見えてきません。 


ふむ。 

そう言って神は少し困った顔をした。 


大王よ、他に何か持ち込んだものはないかな。  


神よ、私は知識を持ち込みました。 

たくさんの神や賢者の言葉を自分のものにしようとしたのです。 

私の心の中のプライドや高慢さはそこから生まれてきます。 


大王よ、それではそれをどかしてみてはどうかな。 

神はそう大王に提案した。 


大王は心の中から知識を捨ててみた。 

だが、まだ道は見えてこない。 


神よ、まだ道は見えてきません。 


むむむっ。 

神はさらに困った顔をした。 


大王よ、他になにか持ち込んだものはないかな。 


神よ、私は愛を持ち込みました。 

愛があるために、

欲や感情や知識を 心の中に引き入れたのです。 

これこそ私の中心にあるものです。  


大王よ、それではそれをどかしてみてはどうかな。 

神はそう大王に提案した。 


大王は、ちょっと躊躇した。 

愛がなくなったら、

自分ではなくなってしまうのではないか。 

これ以上、神の言う通りにしたら、 

道が見えてくるどころか、

私はもぬけの殻になるぞ。 


大王よ、愛を捨てられないのかな。 

それでは道は見えてこないぞ。  


大王は覚悟を決めて、愛を捨て去ってみた。 

だが、まだ道は見えてこない。 


神よ。まだ道は見えてきません。 


なるほど。 

神は困惑をごまかすようにひとり言をつぶやいた。 


大王よ、他に何か持ち込んだものはないかな。  


神よ、私は静寂を持ち込みました。 

実際に大王の心の中に残っているものは、 

もう静寂しか見当たらなかった。 


大王よ、それではそれをどかしてみてはどうかな。 


大王はどうしたのものかと思った。 

もう心の中は空っぽなのに、 

神はさらにそこにある静寂も捨てろという。 

これがなくなったら、本当に自分には何もなくなるぞ。 


大王よ、静寂を捨てられないのかな。 

それでは道は見えてこないぞ。  


大王は覚悟を決めて、静寂を捨ててみた。 

だが、まだ道は見えてこない。 


神よ、まだ道は見えてきません。 


大王よ、よくぞそこまで捨て去った。 

では、静寂を捨て去ったあとには何が残っているかな。 


神よ、もう何も残ってはおりません。 

何もかもが空っぽです。  


大王よ、そなたにはどうしても捨てられないものがある。 

それが、空っぽだと知っている者だ。 


おお、神よ、そうです。 

まだそこには誰かがいました。 

それは私です。 


すべてを捨て去っても、私だけは残っていました。 

これは捨てることができません。 


大王よ、そなたはいま、そこを突破した。  

捨て去っていくことが神の道なのだ。 

そして捨て去れないものを見つける。 

これが突破するということだ。 


神よ、私は突破しました。 

そこを突破したと分かります。  

これはどんな財産でも、快楽でも、 

仕事でも健康でもなし得なかったことです。 


大王よ、道を極めた者を讃えよう。  

神は更に言葉を続けた。 


では、今まで捨て去っていったものを拾っていくのだ。 

美しいものも醜いものもすくい上げて、 

再び、そなたの心の中に迎え入れなさい。  


神よ、せっかく突破したのに、 

またこの道を捨て去ったもので塞いでいくのですか。  

私は空っぽのままで構いません。 

これが何にも勝るものだからです。  


大王よ、空っぽになるだけでは不完全だ。 

そこを捨て去ったもので埋め尽くすことで、 

そなたは完全になる。 


そうしても、そなた自身が、 

見失われることなく在ることが必要なのだ。 


心の中を元の混乱に戻すのだ。 

そうしてこそ、 そなたは大王の中の大王になれる。 


そうするかどうかはそなたの自由。 


私は大王に道を示した。 

私の役割は終わった。 


神はそう言うと わははと大声で笑いながら

大王の前から消え去った。 

空風瞑想

空風瞑想は忘れてしまった本当の自分を取り戻す瞑想法です。瞑想の中で、今まで気が付かなかった心の新しい扉を開き、静寂でありながらも存在に満ち溢れ、完全に目覚めている本当の自分をそこに見つけます。それを自分の拠り所にすることで、人はその真実と共に蘇り、新しい自分として生きることを始めていきます。